「グース・ネック薔薇水撒水瓶」18~19世紀、ペルシャ、箱根ガラスの森美術館蔵

 モスクに寄進する香料、礼拝時に衣服や体にたく薫香、麝香(じゃこう)の香りと花々に満ちるという死後の楽園など、イスラム文化に深く根付くさまざまな香りの中でも特に好まれた薔薇(ばら)水は、「アラビアン・ナイト」にも登場し、室内にまく、歓待のために来客に振りかける、料理や菓子の香り付けなど多岐に渡り使用され、その習慣は今日でも続いている。

 8世紀から蒸留技術が進展し、10世紀以降にその技術が一般化したイスラム世界では、バラの栽培が盛んであったこともあり、バラの精油とその副産物の薔薇水が製造され、広く普及した。

 薔薇水撒水瓶とは、その名の通り薔薇水を室内にまくための瓶である。水鳥が首をもたげたような姿から「グース・ネック」と呼ばれるこの器形は、18世紀から19世紀にイランのシラーズ地方で作られ、上流階級で流行した。ガラス瓶に納められた薔薇水は、東はインドや中国、西はヨーロッパ各国へ輸出され、やがてヨーロッパで興る香水文化の礎を築いていく。

INFORMATION

特別企画展「香りの装い~香水瓶をめぐる軌跡~」

<会 期>2025年1月13日(月・祝)まで。午前10時~午後5時半(入館は同5時まで)。会期中無休
<会 場>箱根ガラスの森美術館(神奈川県箱根町仙石原 電話0460・86・3111 https://www.hakone-garasunomori.jp
<入館料>一般1800円、高校・大学生1300円、小・中学生600円

主  催:箱根ガラスの森美術館、毎日新聞社
後  援:箱根町
協  力:箱根DMO(一般財団法人箱根町観光協会)、小田急グループ
特別協力:海の見える杜美術館、高砂香料工業

2024年8月29日 毎日新聞・地方版 掲載

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