ペストなどの疫病が流行した中世には、香料や香辛料のもつ防疫効果が人々の間で信じられ、香りを袋に入れて持ち歩く習慣が生まれた。中でも12世紀に中東から西洋に伝えられた香料と樹液を混ぜた練り玉「ポマンダー」も香りの防疫効果を狙ったものの一つである。この練り玉を入れる容器も同じくポマンダーと呼ばれ、14世紀以降には精巧な金銀細工が施されたものが登場した。
このドイツの銀製ポマンダーは、上部のネジ式の蓋を回すと、胴体がくし切りの果物のように6つに分かれる仕掛けが施されている。それぞれシナモン、ナツメグ、ローズマリー、バラなど異なる練り玉が収納でき、即座に取り出して嗅げるようになっている。また、台座の内部には練り玉を取り出す際の小さな匙(さじ)が収納されており、取り外して使用できる仕組みも備わっている。わずか5㌢ほどの大きさながら、機能的な仕掛けが盛り込まれ、400年近く経た現在においても寸分のズレのない緻密な作りとなっている。表面には細密な鳥や草花の彫刻も施され、機能性と装飾性を兼ね備えたポマンダーの逸品といえるだろう。
INFORMATION
特別企画展「香りの装い~香水瓶をめぐる軌跡~」
<会 期>2025年1月13日(月・祝)まで。午前10時~午後5時半(入館は同5時まで)。会期中無休
<会 場>箱根ガラスの森美術館(神奈川県箱根町仙石原 電話0460・86・3111 https://www.hakone-garasunomori.jp)
<入館料>一般1800円、高校・大学生1300円、小・中学生600円
主 催:箱根ガラスの森美術館、毎日新聞社
後 援:箱根町
協 力:箱根DMO(一般財団法人箱根町観光協会)、小田急グループ
特別協力:海の見える杜美術館、高砂香料工業
2024年8月28日 毎日新聞・地方版 掲載