音が鳴り、それが音楽となって展覧会場に響く。映像作品がメインだが、静かに座って鑑賞していられない。音楽にまつわる作品を集めた本展は、どうしたって体が揺れる、そんな楽しさに満ちている。
島袋(しまぶく)道浩は1969年、神戸市生まれ。さまざまな場所を旅し、人と出会い、その土地で制作してきた作品が並ぶ。
日本初公開となるのがアート・リンゼイや野村誠が参加した「キューバのサンバ リミックス」の2作品(2016、23年)。ハバナの展示会場は天井から水漏れするような工場跡地だった。そこで、水を受ける空き缶を置いたところ、「心の躍る音がした。音楽が聞こえてきた」。缶を打つ音がリズムを刻みはじめ、それに合わせて楽器の音色を重ねたという。
実は、地下鉄駅構内にある、会場の横浜・BankART Stationも、雨漏りがつきものだったという。そこで、この地で新作「横浜、音楽が聞こえてきた」を制作。雨だれ缶の音楽は、脱力しそうな魅力をたたえていて、いつまでも聞いていたくなる。
おなじみの「そしてタコに東京観光を贈ることにした」(00年)など2作品には、歌とリズムが加わって、浮き浮きするような「ヘペンチスタのペネイラ・エ・ソンニャドールにタコの作品のリミックスをお願いした」(06年)として披露された。
06年のサンパウロ・ビエンナーレ(ブラジル)に参加した際、路上で出会った吟遊詩人に、上記の映像に即興で「字幕」をつけてもらったもの。彼らなりの解釈で、作品を読んでいくさまが実に楽しい。
メロディアスな音楽に合わせて、ジャガイモが魚と一緒に気持ちよさそうに海を泳いでいる(ように見える)「シマブクのフィッシュ・アンド・チップス」(06年)、スワンボートが池から大海にこぎ出す(ように見える)「白鳥、海へゆく」(12、14年)なども作家らしいユーモアに満ちている。
「音楽家の小杉武久さんと能登へ行く」(13年)が表すように、音を見つけて、音と遊ぶ行為こそが音楽なのだ、と感じさせてくれる。9月23日まで。
2024年8月19日 毎日新聞・東京夕刊 掲載