富山県が生んだ天才絵師、石崎光(こう)瑤(よう)(1884~1947)。生前から評価が高かったものの、これまで全国的には知られていなかったが、その作品の素晴らしさに心引かれた京都の1人の学芸員の熱意で、初めて北陸以外の全国を巡回する回顧展が開かれる。その皮切りとなる「生誕140年記念 石崎光瑤」(毎日新聞社など主催)が9月2日まで、富山県南砺市の市立福光美術館で開かれている。
光瑤は、富山県福光町(現・南砺市)の商家に生まれた。幼い頃から画才を発揮し、19歳で京都画壇の大家、竹内栖鳳(せいほう)に入門し、色鮮やかで緻密な写生描写に基づいた美しい花鳥画を次々と発表。また旅行好きとしても知られ、1916~17年にかけて約9カ月インドを旅し、その熱帯の情景を鮮やかに描いた「熱国妍春」は18年の文展(現在の日展)で特選を受賞。翌年も「燦雨」で帝展(同)で連続特選を受賞した。
87年、遺族から遺作の寄贈の申し出を受けて建設されたのが福光美術館で、現在は下絵類約630点、本画110点を所蔵。国内最大のコレクションを誇る。その作品に注目したのが、巡回先の一つである京都文化博物館(京都市)の主任学芸員で、近代日本画が専門の植田彩芳子さん。数年前に「燦雨」を目にし、そのけんらん華麗な花鳥画に魅了された。以来「全国に紹介したい」と展覧会を企画し、福光美術館所蔵品を中心に全国の作品の研究を続けた。
今回、初期から晩年までの絵画や資料など約100点を展示。目玉は金剛峯寺(和歌山県)奥殿のふすま絵だ。1932年に寺から依頼され再度、インドに取材旅行に出掛けて制作したもので、優れた登山家としても知られる光瑤が、ヒマラヤの壮大な自然を「虹雉」(8月5日まで展示)、「雪嶺」(同7日から展示)の計20枚のふすま絵に描いた。当時の名声を裏付けるもので、普段は非公開。「雪嶺」が寺外に出るのは初めてという貴重な機会だ。
富山の後は、京都文化博物館、静岡県立美術館(静岡市)、日本橋高島屋(東京都中央区)を巡回する。植田さんは「全国では知られていなくても心引かれる作品。図版とは違い実際に見ないと分からないのが一つの特徴で、大きな業績を残した作家を広く知ってほしい」と話す。観覧料は一般1000円、高・大学生210円、中学生以下無料。火曜休館。開館30周年の7月31日は観覧無料。問い合わせは同美術館(0763・52・7576)。
2024年7月27日 毎日新聞・地方版 掲載