昨秋、東京都美術館で大きな評判を呼んだ「永遠の都ローマ展」は5日、福岡市美術館(同市中央区)で開幕する。古来から現代まで、政治や宗教、文化などを通して、世界の人々に大きな影響を与えてきた都市・ローマの歴史と芸術を、1471年からあるカピトリーノ美術館が誇る絵画や彫刻、版画などで堪能できる。西日本地区では唯一の巡回先であり、天才画家・カラヴァッジョの傑作「洗礼者聖ヨハネ」は福岡展のみで鑑賞できる。
この展覧会の魅力は何といっても、カピトリーノ美術館のコレクションを通してローマの歴史と文化にじっくりと浸れることでしょう。
同館はかつて最高神ユピテルらをまつった神殿があるカピトリーノの丘にあります。世界で最も古い美術館の一つとされ、ルネサンス期に教皇シクストゥス4世がローマ市民に古代の彫刻を4点寄贈したことから始まったとされています。
その一つが「カピトリーノの牝狼(めすおおかみ)」です。古代ローマ建国神話を伝える叙事詩「アエネイス」の中で、後のローマを建国したロムルスが赤子の頃、双子のレムスと共に狼から授乳され命を救われたというエピソードに基づいて作られました。二つ目が「コンスタンティヌス帝の巨像」です。帝は分割されていたローマ帝国の再統一とキリスト教信仰を公認したことで知られています。本展では皇帝の肖像として、頭部と手足の複製を紹介します。約1・8㍍もある頭部の迫力は必見です。
その後数世紀にわたり、歴代の教皇たちはこぞってローマ市民の誇りを呼び覚まし、また自身の権威を誇示するため、古代遺物をカピトリーノの丘に移しました。古代彫刻「マルクス・アウレリウス騎馬像」もその一例となります。この時、ミケランジェロがカピトリーノ広場の建築整備を計画しました。その構想の様相はデュペラックのエッチング「カンピドリオ広場の眺め」からうかがい知ることができます。
また時を経て、当時の名家から多数の絵画が同館にもたらされました。その中で最も注目すべき作品が日本初公開となる「洗礼者聖ヨハネ」です。こちらに向ける聖ヨハネのほほ笑みが、左上から差す光によって効果的に演出されています。劇的な明暗表現を得意とするイタリアの画家、カラヴァッジョによって描かれました。洗礼者聖ヨハネであると裏付ける羊や毛皮などが描かれているものの、さまざまに解釈されてきました。旧約聖書のアブラハムの息子イサクや、一方でヤギを伴う少年、おひつじ座の象徴的表現などと解釈されたこともありました。若者の謎めいたほほ笑みが、それだけ人を引きつけているといえます。
この他、明治初期における岩倉使節団のローマ訪問など、同美術館と日本の関係を特集する展示も紹介します。本展は、同館のコレクションから構成されたよりすぐりの約70点を通して、永遠の都ローマの2000年もの歴史と文化を知ることができる大変貴重な機会となります。
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■講演会「都市ローマを読み解く」
20日(土)午後2~4時、同館1階ミュージアムホール。九州大大学院・堀賀貴教授、同院・小川拓郎助教、西南学院大・山田順准教授による鼎談(ていだん)。聴講無料だが、本展チケットもしくはチケット画面の提示が必要。申し込みはこちらから。14日締め切り。当落は締め切り後、電子メールで案内する。応募者多数の場合は抽選。
INFORMATION
永遠の都ローマ展
<会期>5日(金)~3月10日(日)、月曜休館。ただし月曜が祝休日の場合は開館し、翌火曜を休館する。
<開館時間>午前9時半~午後5時半(入館は午後5時まで)
<会場>福岡市美術館(同市中央区大濠公園)
<観覧料>一般1800円▽高大生1200円▽小中生600円
<問い合わせ>ハローダイヤル(050・5542・8600、午前9時~午後8時)
<音声ガイド>アニメ「呪術廻戦」などで人気の声優・諏訪部順一さんと、2022年に映画「ローマの休日」(新吹き替え版)でアン王女役を担当した声優・早見沙織さんが、展示作品を分かりやすく紹介します。1台650円。
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主催 福岡市美術館、毎日新聞社、NHK福岡放送局、NHKエンタープライズ九州
共催 ローマ市、ローマ市文化政策局、ローマ市文化財監督局
後援 駐日イタリア大使館、福岡県、福岡県教育委員会、福岡市、福岡市教育委員会
助成 公益財団法人福岡文化財団
協賛 JR東日本、ダイワ化成、DNP大日本印刷、西日本シティ銀行
協力 ITAエアウェイズ、日本貨物航空、イタリア文化会館―大阪
2024年1月4日 毎日新聞・西部朝刊 掲載