絹糸を使ったインスタレーションを発表してきた池内晶子(1967年生まれ)の美術館初個展「池内晶子 あるいは、地のちからをあつめて」が東京・府中市美術館で開催されている。糸という素材から生まれた造形は、「見える・見えない」の間を行き来しつつ、空間ごと見る人を包み込む。
メインは展示室三つをそれぞれ大きく使った作品。最初の部屋=写真=では、張られた糸から紡錘(ぼうすい)状の形が生じ、赤い絹糸によって空間が色づく。細い糸が重なり、見る角度によってその色は濃くなったり薄くなったりする。中央の暗い部屋には1本の糸が垂れており、近くに人が寄れば息や風圧で揺れ動くことを知る。最後の部屋は、初めの部屋よりさらに照明を落としていて、ある位置に立つと、対角線上にたわむ糸の筋が見えてくる。制作にあたって近くに流れる多摩川などの地形や、米軍施設があった歴史をリサーチしたといい、決して明確に見えるわけではない事前の行為が作品を支えている。
制作風景を収めた動画が興味深い。糸巻き一つを手に取り、指先から糸がするすると繰り出される。「糸はよって作られるため、糸を使うこと自体が回転を含んでいる。糸を切れば、回転が生まれる」と話す。繊細なようでいて、力強さも併せ持つ絹糸。回転は静かなエネルギーとなって空間と時間を感じさせる。27日まで。
2022年2月21日 毎日新聞・東京夕刊 掲載