「この隙に自然が」の会場風景 撮影:木暮伸也氏

【展覧会】
この隙に自然が
コロナ下、3作家が紡ぐ戸外の風

文:小林公(ただし)・兵庫県立美術館学芸員

現代美術

 (MtK Contemporary Art・23日まで)

 コロナ禍が始まってすでに2年が過ぎた。部屋にこもってまぶしく輝く画面ばかり見続けているせいか、いつも目が疲れている。そんなことを考えながら足を踏み入れた会場のたたずまいはとても穏やかで、温めたタオルをまぶたにあてた時のように心地がよい。

 本展には伊藤存(ぞん)の刺しゅうによる絵画や草木を染料にしたドローイング、かなもりゆうこの布や糸、紙を素材にした作品、長島有里枝の草木や愛犬を写した写真が集う。部屋の真ん中にはテーブルが置かれ、その上に展覧会の起点となったタンポポの写真のカード(これも伊藤の作品)が、カードという形式に触発された他の2人の小品と並べられている。タンポポの写真といっても花をつけた姿はなく、冬を越すために地面に張り付くように葉を広げたロゼットと呼ばれる形態を写したもの。展覧会の企画者でもある伊藤がロゼットに目を向けた経緯は展覧会ホームページなどでも語られているのでそちらに譲りたいが、一口にタンポポと言ってもこれと決まった姿があるわけではなく、季節の移ろいの中でさまざまに姿を変えていることに気付くのは容易でない。まして一本一本が異なる個体であることを意識することはほとんどない。人間である私にタンポポを見分けることができないとしたら、タンポポの方は2人の人間を見分けられるだろうか、そう問いかけられているようだ。

 会場に並ぶ品々は、作り手ごとに分け隔てられて置かれることはない。無理のない範囲で空間を分け合い、それぞれに必要な分の生息地を得ている。木立のなかを歩いている時のように、はじめは視界に入るひとつひとつの存在を取り出すことは難しいかもしれない。それでも少し時間をかけて、会場で配布されている資料の助けも借りながら散策すれば、作品の凜(りん)とした個性がはっきりと見えてくるだろう。3人の人間が家という住処(すみか)で生み出した作品は、不思議なことに戸外の光と空気を感じさせるものばかりだ。部屋の奥には小さなチョウが舞っている。もうすぐ春がやってくる。

INFORMATION

MtK Contemporary Art

京都市左京区岡崎南御所町20の1

2022年2月9日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載

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