「永遠の都ローマ展」が16日から東京・上野公園の東京都美術館で始まる。本展は、イタリア・ローマのカピトリーノ美術館の所蔵品を中心に、建国から古代の栄光、教皇たちの時代から近代まで、約70点の彫刻、絵画、版画などで、ローマの歴史と芸術を紹介する。なかでも、初来日となる古代彫刻の傑作「カピトリーノのヴィーナス」は必見だ。見どころを、小林明子・東京都美術館学芸員が解説する。
◇「カピトリーノのヴィーナス」必見
「永遠の都」として知られるローマの歴史と文化は、古代以来、宗教や政治の拠点とされたカピトリーノの丘を中心に築かれました。その丘の上に建つカピトリーノ美術館は、世界で最も古い美術館の一つに数えられます。
カピトリーノ美術館のはじまりは、ルネサンス時代の教皇シクストゥス4世が1471年に4体の古代彫刻をローマ市民に返還、寄贈したことにさかのぼります。そのうちの1点が、ローマの建国神話にちなむ「カピトリーノの牝狼」です。ウェルギリウスの叙事詩「アエネイス」によれば、トロイア戦争の英雄アイネイアスは、苦難の末にイタリア半島に上陸し、その子孫にあたるロムルスがローマを建国しました。なかでも、双子の兄弟ロムルスとレムスが雌オオカミに授乳され育てられたというエピソードはよく知られています。本展では、ローマのシンボルとして現在、市庁舎に置かれている後世の複製作品をご覧いただきます。
教皇が古代彫刻をローマに寄贈し、カピトリーノの丘に移設した背景には、ローマ市民の誇りを呼び覚ますとともに、自身が古代ローマの正統な継承者であるということを示す目的がありました。やがて重要な古代彫刻がカピトリーノに持ち運ばれるようになり、16世紀には「マルクス・アウレリウス帝騎馬像」がこの地に運ばれ、広場の中央に設置されました。このとき騎馬像の台座のデザインおよび広場の整備計画を任されたミケランジェロは、既存の建物やその配置を巧みにいかした台形広場を創出しました。その構想は、エティエンヌ・デュペラックの版画からも知ることができます。
本展の見どころの一つは、なんといっても古代彫刻の傑作「カピトリーノのヴィーナス」です。身体のなめらかな曲線と、肌のふっくらとした質感が魅力的なこのビーナス像は、ギリシャの彫刻家プラクシテレスが制作した有名なアフロディテ像の系譜に属するもので、2世紀のローマで制作された作品です。胴体をやや前方に傾け、自然なしぐさで裸身を隠す恥じらいのポーズは、彼女が裸体であることを観者にいっそう意識させます。
日本で初公開される本作がカピトリーノ美術館を離れるのは、1797年にナポレオン指揮下のフランス軍によりパリに持ち運ばれたときを含め今回が3度目のことになります。同館の顔ともいえるビーナス像の出品は、本展ならではのきわめて貴重な機会といえるでしょう。
カピトリーノ美術館は、実は日本と縁の深い場所でもあります。明治政府が欧米に派遣した岩倉使節団は1873年にカピトリーノ美術館を訪れ、その経験が後に日本の博物館政策や美術教育に影響を与えることとなりました。2023年は使節団の訪問から150年の節目にあたります。この記念すべき年に、同館の輝かしいコレクションを通して、2000年を超えるダイナミックな歴史と芸術をお楽しみください。
◇ナビゲーター諏訪部さん、ナレーター早見さん
音声ガイドはアニメ「呪術廻戦」などで人気の声優・諏訪部順一さんがナビゲーターを、昨年テレビ放映された「ローマの休日」でアン王女役の吹き替えを担当した早見沙織さんがナレーターを務めます。貸出料金650円(税込み)。
◇図録予約受け付け中
通販サイト「まいにち書房」(https://www.mainichi.store/)で公式図録を予約販売します。A4変型判。1冊3000円(税込み)。送料別。
INFORMATION
12月10日まで開催
<会期>
2023年9月16日(土)~12月10日(日)。月曜休室(ただし、祝日の場合は開室、翌日閉室)。開室時間は午前9時半~午後5時半、金曜日は午後8時まで(入室は閉室の30分前まで)
<会場>
東京都美術館 企画展示室(JR・地下鉄上野駅下車)
<前売り券>
一般2000円、大学・専門学校生1100円、65歳以上1300円。高校生以下無料。当日券は各200円増し。土日・祝日のみ日時指定予約制。お得な前売り券は9月15日(金)まで
展覧会公式サイト(https://roma2023-24.jp)をはじめ、主要プレイガイドなどで購入できます。
<お問い合わせ>
050・5541・8600(ハローダイヤル)
主催 公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館、毎日新聞社、NHK、NHKプロモーション
共催 ローマ市、ローマ市文化政策局、ローマ市文化財監督局
協賛 JR東日本、大和ハウス工業、DNP大日本印刷
協力 ITAエアウェイズ、日本貨物航空
2023年9月8日 毎日新聞・東京朝刊 掲載