日本でも食器やテキスタイルが高い人気を誇る北欧デザイン。その中核をなすフィンランドの1930~70年代のデザインを概観する展覧会が東京・渋谷のBunkamuraザ・ミュージアムで開かれている。2022年1月30日まで。
デザイン大国とも言われるフィンランドのデザイン史は1917年に果たしたロシアからの独立と関係が深い。「デザイン」をエンジンに一気に国民生活を近代化し、大量生産の土台を整えることで、産業や経済の活性化を図ったからだ。カイ・フランクがデザインし、アラビア製陶所が制作した「BAキルタ」はまさに「形は機能に従う」を地で行く食器シリーズ。意匠は釉薬(ゆうやく)のみ。どの皿で何を食べてもよく、収納しやすく、一点ずつ補充でき、世代を超えて使い続けることができる。本展を担当した菅沼万里絵学芸員は「伝統的なヨーロッパの食器の概念を覆した。使い手に親切で優しい設計はフィンランドデザインに通底する特徴」と語る。
もう一つの特徴は、モダニズムの道をまい進しながらも自然から着想を得続けた点だ。アルバ・アアルトによるおなじみの花瓶「サボイ」は湖や群島のような形だし、イッタラガラス製作所の作品はどれもいてつく氷を連想させる。
現在、首相をはじめ閣僚の過半数を女性が占めるフィンランド。ムーミンの生みの親トーベ・ヤンソン、大胆かつ明るいテキスタイルで知られるマリメッコの創業者、同国を代表するセラミック作家ルート・ブリュックをはじめ、本展に登場する主な作家約50人のうち、こちらも半数以上が女性だ。当時からデザインの現場でも女性が主要な役割を担っていたことが分かる。日本の暮らしのデザインを担う民芸運動が男性中心だったことと比較しながら見ると面白いかもしれない。
2021年12月15日 毎日新聞・東京夕刊 掲載