ヨハネス・フェルメール《窓辺で手紙を読む女》  (修復後) 1657~59年ごろ ドレスデン国立古典絵画館ⒸGemäldegalerie Alte Meister, Staatliche Kunstsammlungen Dresden, Photo by Wolfgang Kreische

 静穏な室内風俗画で、日本でも人気の高いフェルメール。現存する30点あまりのうち1点が、2017年から始まった大規模な調査・修復で制作当時の姿を取り戻した。

 開け放たれた窓から光が差し込み、若い女性をひときわ明るく照らしている。手元の手紙に目を落とす彼女のほおは紅潮している。画面右にあるのは、カーテン。当時実際に絵の保護用にかけられていたカーテンを、だまし絵のような効果を狙って描き入れた。ただし、上部のレールは、額によって覆われているため、美術館では確認することができない。

 画家の初期作として知られるこの作品。奥には陰影に富んだ灰色の大きな壁が描かれていたが、上塗りを取り除くとキューピッドが描かれた画中画が現れた。キューピッドは湾曲した弓を持ち、仮面を踏みつけている。つまり、絵は「正直で誠実な愛だけが、うそや偽善に打ち勝つことができる」と告げているのだという。

 キューピッドの存在は、1979年のエックス線調査で分かったが、作者自身の手によって隠されたと考えられてきた。今回の調査では、絵の具の状態から画家の死後に上塗りされたことも判明。また、汚れを除去したことで、画面もぐっと明るくなった。テーブルにかけられた織物の緻密な模様や、中国製の陶器のなかでつやつやと輝く果物は、本展に展示されている同時代の他の作品とも響き合う。

 正直に言うと、華やかになった修復後の作品にちょっとした戸惑いも覚えた。それは、修復前の意味ありげな壁に過剰に物語を読みとっていたからかもしれない。

PROFILE:

Johannes Vermeer(1632~75年)

 オランダの商都デルフト生まれ。19世紀半ばに評価されるようになった。本作は1742年に収蔵され、その時点では、存命中から高く評価されていたレンブラントの作だとされていたという。

INFORMATION

ドレスデン国立古典絵画館所蔵 フェルメールと17世紀オランダ絵画展

 4月3日まで、東京都台東区上野公園8の36の東京都美術館(ハローダイヤル050・5541・8600)。月曜日(3月21日のぞく)と3月22日休館。日時指定予約制。北海道、大阪、宮城に巡回。

2022年2月28日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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