ユニークな建築は、建築家と優れたエンジニアである構造家との協業によって実現するが、これまで後者に光があたることはあまりなかった。東京・天王洲の「WHAT MUSEUM」で2月25日まで開かれている「感覚する構造―力の流れをデザインする建築構造の世界―」展は、40点以上の模型などを通して「縁の下の力持ち」として活躍する構造家らの仕事や建築の奥深さを伝える。
佐々木睦朗氏は、磯崎新氏、伊東豊雄氏、建築家ユニットのSANAAら国内外で活動する建築家らと野心的な建築を実現させてきた構造家だ。エレベーターなどを収めた13本のチューブが7枚の床を支える伊東氏の代表作「せんだいメディアテーク」でその独特のプランを具現化したことでも知られる。
2人のスケッチの対比が興味深い。伊東氏が描くチューブは繊細にゆらめく一方、佐々木氏がそれを見て送り返したスケッチはチューブの一部が一回り太い。完成模型を見ても伊東氏の当初案よりチューブには安定感と存在感が増し、佐々木氏の提案の反映がうかがえる。東日本大震災の揺れに耐え、構造家の役割が注目された建築でもあった。
展示では、現在進行形で進む月面を舞台にした研究も紹介する。東京大の佐藤淳准教授が宇宙航空研究開発機構(JAXA)と共同開発するのは月にさまざまな施設を建設するためのベースキャンプ。資材などはロケットに積み込んで地球から運ぶためコンパクトであることが求められる一方、月面では複雑な工程を抜きにすばやく立ち上げたい。そんな要求に応える構造は、折り紙のように紙を畳んだり広げたりして検討した。こうした試行錯誤の過程が見られる他、実際に触れて力のかかり具合を体験できるコーナーもある。
本展を企画した近藤以久恵・建築倉庫ディレクターは「構造家は、数学や力学といった自然科学と向き合い、計算や実験を積み上げることで、力の流れを自身の中に感じるという。模型の数々を通してこの世界にはたらく力に気づく機会にもなればうれしい」と話した。
2024年1月15日 毎日新聞・東京夕刊 掲載