ベネチア・ビエンナーレ日本館代表に選ばれた毛利悠子さん(右)と、キュレーターを務めるイ・スッキョンさん

 2024年に開催される「第60回ベネチア・ビエンナーレ国際美術展」の日本館出品作家に毛利悠子さん(42)が選ばれた。また、毛利さんの指名を受け、キュレーターは英テート・モダン美術館シニアキュレーターのイ・スッキョンさん(53)が務めることになった。外国出身者が日本館のキュレーションをするのは初めてだという。

 毛利さんは、環境などによって変化する事象に着目し、近年では果物に電極を挿して水分量の変化を音と光に転換して見せる彫刻に取り組んでいる。また、ソウル出身のイさんは、毛利さんも参加する第14回光州ビエンナーレ(23年)のアーティスティック・ディレクターを務めたほか、ベネチアでも韓国館キュレーターの経験がある。

 今回は、国内外の24人から寄せられた候補者を基に、片岡真実、建畠晢、野村しのぶ、松本透、南雄介、鷲田めるろの各氏による国際展事業委員会が、毛利さんのほか、風間サチコ、鴻池朋子、志賀理江子、百瀬文の各氏を選出。スケジュールの都合で辞退した志賀さん以外の4人から展示案を受けて最終的に毛利さんを選んだ。

 国際交流基金本部(東京都新宿区)で6月にあった記者会見で、毛利さんが挙げたのは「水」。毛利さんには駅構内の水漏れ応急処置の現場を撮影した「モレモレ東京」のシリーズがあるが、洪水や高波などの気候変動にまで視野を広げて話は進んだ。

 台風2号では、茨城県のアトリエが水没して代表作が廃棄処分となったといい、「危機は時に逆説的に人々に最大の創造性を与えるという確信に近いものを持つようになった。この状況下で、私は絶望しながらも腹の底から湧き上がる力をふつふつと感じています」と力強く宣言してみせた。

 イさんは、毛利さんの作家としての魅力を「政治的な意味合いを強く押し出すことはないが、柔らかに深く熟考する」点だと指摘。国際展で問われることが多い芸術と社会の関係について、アートの力を水の性質に例えつつ「水は柔らかく弱いが、実は大きな岩をも砕く力や、川を分岐させる力をも持つ。このアートの底力を信じていきたい」と語った。

2023年7月10日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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