オノデラユキさんの「古着のポートレート」シリーズ展示風景=山田夢留撮影

 スマートフォンで誰もが日々「モノ」を撮り、発信する今、改めて「モノを撮るとは」を考える展覧会「BUTSUDORIブツドリ:モノをめぐる写真表現」が、滋賀県立美術館で開かれている。写真を撮る者、撮られるモノ、そして見る者が紡いできた、豊かな表現の歴史をひもとく。

 「物撮り」は主に広告写真で使われる言葉。本展では「モノを撮る」行為全般に広げて解釈し、幕末の最古級のものから、現代の表現まで約200点を集めた。冒頭を飾るのは、大辻清司(1923~2001年)が75年に雑誌『アサヒカメラ』に連載した「大辻清司実験室」掲載の写真。「まるめて玉になったメモ用紙」「ここにこんなモノがあったのかと、いろいろ発見した写真」「だいじな釘(くぎ)」など7点が並ぶ。写るのはただのモノ、もしくは大辻にしか意味を持たないモノのはずなのに、その向こうにある物語にいつの間にか想像は広がっていく。

大辻清司「ここにこんなモノがあったのかと、いろいろ発見した写真」1975年 東京国立近代美術館蔵=提供写真

 展覧会は6章構成。日本の写真史を代表的な写真家の作品でたどりながら、各章でテーマと交錯する現代の表現を紹介している。例えば仏像を中心とした文化財写真の章には、潮田登久子さん(1940年生まれ)の「Bibliotheca」シリーズ。本の美しさにひかれた潮田さんが、図書館から個人の本棚までさまざまな場所で撮影した。長い時間の堆積(たいせき)を感じるものもあれば、持ち主の強い思いを感じるものも。人々が祈りをささげた仏像の隣に並ぶ古書の姿もまた、ページをめくった人々の体温をまとっていることに気付く。

 近年、再評価が進む戦前の前衛写真の章には、オノデラユキさん(62年生まれ)と今道子さん(55年生まれ)の作品が展示されている。オノデラさんの初期の代表作「古着のポートレート」シリーズは、シュールレアリスムを想起させる空と古着の組み合わせ。異なる空模様に浮かぶセーターやシャツは、軽やかでありながら、そこにはいない元の持ち主ひとりひとりの存在を、重みを伴って伝えてくる。3月23日まで。

2025年2月17日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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