「晩餐」 2026年 ©Natsuko Tanihara, courtesy of MEM

【ART】
東京・虎ノ門で谷原菜摘子展
傍観者ではいられない

文:平本絢子(毎日新聞記者)

現代美術

 黒のベルベットを下地に、鮮やかな油彩やグリッターなどで人間や社会の闇を描く画家の谷原菜摘子さん(1989年生まれ)。新作を展示する個展「晩餐(ばんさん)」が、東京・虎ノ門の「ギャラリー舞台裏」で開かれている。一辺3㍍近くにも及ぶ二つの大作が中心で、きらびやかで幻想的な世界観でありながら、鑑賞者と社会に問いかける力強さがある。

 「晩餐」(2026年)は、ドレスやスーツで着飾った人々が、豪華な食卓を囲んだ風景を描いている。画面の左側に座る人たちは普通に食事をしているように見えるが、右側に進むにつれてテーブルや床が傾き、闇の世界へと落ちていく。人々は体が傾きながらもその危機に気づくそぶりはなく、落ちる直前になって、画面の外にいる鑑賞者に助けを求めるような視線で訴えかける。

 本作は以前からあった構想に加え、元々レストランだった会場に着想して実現した。よく見ると、食べ物や椅子の有無などが人によって違い、家庭環境や貧富の差を想起させる。一瞬の快楽と眼前の惨状、それを受け入れられない人々。谷原さんは「自分に破滅が迫っていても寸前まで気づくことはできず、誰かが破滅した時に助けることは難しい。現代の事象にも当てはまると思う」と語る。鑑賞者もただの傍観者ではいられない。

 もう一つの大作「あの人だけが知っている」(同)では、天井のスプリンクラーから大量の水が噴き出す中、人々が食事や酒を楽しんでいる。多くの人は水浸しの中で平然と振る舞うが、画面の奥にいる一人だけがなぜかスプリンクラーで水を浴びている。異常事態に気づいた人でさえ「必ずしも正しい行動ができるわけではない」と谷原さん。今の社会と重ね、作品の持つメッセージがより生々しく、胸に刺さる。

「あの人だけが知っている」2026年 ©Natsuko Tanihara, courtesy of MEM, photo by Ryo Yoshiya

 「晩餐」では同ギャラリーの床を、「あの人だけが知っている」では天井を作品に登場させている。展示空間と一体となって、没入感を生み出す仕掛けも面白い。10月11日まで。

2026年9月28日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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