<誰にも会ってはいけない日。(中略)/ずっと夜が続いている。/2020年5月>。会場入り口に記された作家の言葉に導かれ、作品世界へと入っていく。
ニューヨーク在住の写真家、田中愛弓さんの個展「While Everyone Sleeps/皆が眠っているあいだ」が大阪市西区のギャラリー「The Third Gallery Aya」で開かれている。新型コロナウイルス禍で外出が禁止された20~23年にニューヨークのアトリエで制作したシリーズ20点が並ぶ。
田中さんは1978年、愛媛県生まれ。大阪芸術大写真学科を卒業後、渡米。20年近くニューヨークを拠点に制作を続けている。昨年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)に作品3点が収蔵されて現在、展示もされている。本展は、MoMAでの展示に合わせて企画され、別にプリントした収蔵作3点も会場で見られる。
田中さんは、撮影した写真を切り抜いた断片で立体的な模型を作り、それを撮影するといった制作手法を取る。本展シリーズではさらに、イチゴやフォーク、魚など実際の物を模型に重ねて撮り、より複雑な画面構成を生み出した。自身や街の風景、食器や果物など身近な素材を用いながら、異世界のような独自の作品世界を構築している。外出もままならず、一人で長い時間を過ごした作家の心象風景が写し出されており、コロナ禍の閉塞(へいそく)感や不安感がよみがえる。
MoMA収蔵作の一つ「長い夜」(21年)は、ざわめく木々に、空には鳥のような雲らしきもの。画面中央にある満月のように丸く明るい部分は、そこだけ昼間の青空にも見える。他人の夢の中に入り込んだような不穏な感覚にとらわれる。
2026年9月14日 毎日新聞・東京夕刊 掲載