17世紀オランダで活躍した画家のレンブラント(1606~69年)は、油彩画だけでなく、版画家としても表現の可能性を切り開いた巨星だった。その変遷が分かる作品の数々や、影響を与えた芸術家たちに光を当てた「版画家レンブラント 挑戦、継承、インパクト」展が、東京・上野の国立西洋美術館で開かれている。
レンブラントは、16世紀ごろには主流の版画技法ではなくなっていたエッチングを用いて大胆で自由な線描ときめ細かな陰影を表現しようと試み、その可能性を広げた。
多彩な表現技法がふんだんに盛り込まれているのが「百グルデン版画」(48年ごろ)だ。タイトルの「グルデン」はかつてオランダで使われていた通貨。平均的な年収が200グルデンとされる当時、版画で破格の高価格だったため名付けられた。病人たちに救いの手を差し伸べるキリストを中心に、新約聖書にある複数のエピソードが混在する形で描かれている。画面上には無数の細かい線が張り巡らされ、印刷に和紙を使ってインクをにじませたり、エッチング以外の技法も併用したりすることで生まれた、豊かなグラデーションが見どころだ。
レンブラントの版画作品は、時代や国境を超えて、多くの芸術家たちに影響を与えた。そのインパクトを表す作品の一つが「窓辺でエッチングを制作する自画像」(48年)。18世紀にはドイツのシュミット、20世紀にはフランスのマティスが、同作を参考にしたとされる作品を残しており、それぞれ本展で展示されている。シュミットの「窓の蜘蛛(くも)を伴う自画像」(1758年)はエッチングを用いるほか、構図もよく似ている。マティスの「版画を彫るアンリ・マティス」(1900~03年)は一つの版に繰り返し手を加えてより良いものに昇華させていくという手法にも、レンブラントと通じるところがある。

担当の同館主任研究員、中田明日佳さんは「レンブラントの版画作品の魅力とともに、影響の時間的、地理的スパンの幅広さにも驚いてもらえるのではないか」と話す。9月23日まで。
2026年8月31日 毎日新聞・東京夕刊 掲載