二つのフロアで展示されるのは空間そのもの。鑑賞者は斜め上を見上げるようにして会場を巡るだろう。東京・初台の東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「ほぼ、空」展は、建築家の青木淳さん(1956年生まれ)と、米国を拠点に活動する美術家、リチャード・タトルさん(41年生まれ)によるいっぷう変わった展覧会だ。柱頭を持つ白い円柱、モミの木の枝が入ったバスケット(かご)、薄紙が連なる色彩の帯。三つの要素が繰り返し現れ、さまざまな空間を生む。
「それぞれの空間が個別に機能しながら全体が一つになるようシャッフルしました」。青木さんがそう語るように、通常の会場の使い方を大胆に組み替えたのが特徴の一つ。ミュージアムショップは展示室になり、ショップはギャラリー内の通路に移設され、別のフロアにある収蔵品の一部、野又穫(みのる)さん(55年生まれ)の絵が今展最初の部屋に並ぶ--といった具合だ。
まず目に飛び込むのは壁に貼られた色彩の帯。反対側の壁には建造物や気球を描いた野又作品が並び、中空には天井からつられたバスケットが点在する。仕切り壁のない縦長の空間は奥へ進むほど暗く、暗部に建つ円柱の、角材を重ねた柱頭部に自然と視線は吸い寄せられる。「人は特殊な感情を持ちながら大きなものを見上げ、それから視線を水平に戻した時に空間を発見する」と青木さん。
展示室はどこも暗がりが意図的に作られ、「鑑賞者は光と影によって空間を探究し、想像力が導かれる」とタトルさんは言う。階を上がれば天井は低く、柱頭やバスケットが間近に迫り、空間の見え方、感じ方が随分異なる。

柱の配置は、展示室の見取り図に石を投げ、それが落ちた場所に基づくそうだ。自然光も一部取り入れた本展は、時間の経過とともにモミの葉が床に落ちるなど偶然の要素をはらむ。鑑賞者の視線を上方へと促す「ほぼ、空」の空間は、豊かな変化を兆す空っぽの器でもある。9月23日まで。
2026年8月24日 毎日新聞・東京夕刊 掲載