「幻化」 79年、SOMPO美術館蔵=提供写真

 戦前から戦後にかけて京都画壇をけん引した日本画家、山口華楊(1899~1984年)。東京では27年ぶりとなる回顧展が、新宿区のSOMPO美術館で開かれている。同館は華楊の初期代表作「葉桜」(21年)や円熟期に制作された「猿」(59年)、晩年の集大成「幻化(げんげ)」(79年)を収蔵する。開館50周年記念と銘打った今展は、3作を中心に初期から晩年までの約60点を展示。担当した古舘遼・同館学芸員は「東京でまとまった数(の華楊作品)を見られる機会は珍しい」と話す。

 「葉桜」は縦1・7㍍、横2・7㍍の画面いっぱいに青々とした桜の葉が広がる大作。葉の下にあるわずかな余白には、蛇が地面をはっている様子が描かれ、その緻密な描写や巧みな構図が目を引く。

「葉桜」 1921年、SOMPO美術館蔵=提供写真

 京都の友禅染職人の家に生まれた華楊は、13歳の頃から京都画壇の重鎮、西村五雲(1877~1938年)に師事。五雲も得意とした動物画で頭角を現した。実際の動物を写生するなど写実性を求める一方、次第に動物の「人間くさい」一面を意識するようになった。

 例えば19歳で文展に入選した「角とぐ鹿」(18年)では、1頭の鹿が鋭い角を木の幹で研ぐ力強い動物的な姿を表現。対して、「鹿」(27年)では4頭の鹿が思い思いのポーズでくつろぐ様子を描いた。自著『絵がかきたうて』(84年)には<生ある動物は、それ自体が自在で豊かな表情を持っている。私はそういうものを描きたいと願っている>と記されており、まさにそれぞれに異なる鹿の表情が楽しめる一作だ。

 最終章に展示されているのが「幻化」だ。タイトルは「すべてのものに実体はない」という仏教用語で、2匹のキツネが夢の中で遊んでいるかのような幻想的な風景を描いている。柔らかい筆致に特徴がある華楊の動物画は、画家の慈愛に満ちたまなざしを感じさせるが、本作では「神の使い」ともされるキツネの神秘さや幽玄さまで見て取れる。30日まで。

2026年8月10日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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