岡田裕子さんの「井戸端で、その女たちは」(岸本清子と林三從、山崎つる子)=清水有香撮影

 「なんかさ、このメンツでのんだ事ないよね」「ぶっちゃけてこ~!」。そんなノリでおしゃべりに花を咲かせるのはアーティストの岸本清子(さやこ)と林三從(みより)、山崎つる子。といっても皆とうに亡くなっている。古井戸のオブジェが配された薄暗い室内には声だけが響き、誰もいないテーブルの上のランプが明滅する。

 美術家、岡田裕子さんのシリーズ「井戸端で、その女たちは」の1点。共に戦後の前衛の時代を生きたが、親しかったわけでもない3人の会話劇を軸にしたインスタレーションだ。美術家の夫・会田誠さんとの2人展で発表している。

 女性作家が今よりずっとマイノリティーだった時代。岡田さんは同じ女性として「先輩アーティストがどんなふうに生きていたのかを知りたい」と思い、「もっと注目されていい」と感じた作家たちの作品や人生を調査した上で脚本を執筆し、声を演じた。

 「女たちが親の呪いを解くには魔女になるしかない」「ネオダダの紅一点とか言われてたけどさあ」など、作中の語りは創作に過ぎない。けれど本作は、井戸端会議がそうであるように、「たわいもない長話」と軽んじられてきた女たちの会話にこそ耳をそばだてようとする。そうして歴史からこぼれ落ちたものを現在につなぎ留める。

 会田さんは会期中、大作「混浴図」を公開制作している。美少女や戦争を主題としたタブーに斬り込む作品で知られるが、「自分のエゴだけではなくこの世のことを題材にしようという宿題が頭の片隅にあった」。新作は森羅万象がテーマだ。三方の壁に立てかけたキャンバスの中、湯につかるのは古今東西の偉人に一国の首相、漫画の登場人物、妖怪、おでん……。そこではヒエラルキーも善悪の区別も湯気さながら消えていく。

会田誠さんが公開制作している大作「混浴図」=提供写真

 会場の「カスヤの森現代美術館」(神奈川・横須賀)にはヨーゼフ・ボイスらの常設展示も。ポリフォニック(多声的)な空間に心ゆくまで浸れる。16日まで。

2026年8月3日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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