20世紀の伊デザイン界を代表するエットレ・ソットサス(1917~2007年)。日常で使う家具や事務用品も、彼が手がければ、目を見張る斬新な形と鮮やかな色をまとう。東京・京橋のアーティゾン美術館で開かれている国内初の大規模な回顧展「エットレ・ソットサス-魔法がはじまるとき、デザインは生まれる」では、100点以上のコレクションを展示。前衛性や革新性だけではない、戦後社会の人々を鼓舞しようとした思いが感じられる。
ソットサスは大学卒業後、第二次世界大戦に従軍し、ドイツ軍の捕虜も経験した。戦後は反戦、平和の姿勢を貫き、デザインを通じて人々を明るく照らそうとした。目指したのは、当時支持されていた合理性や機能性を重視する「モダンデザイン」とは対照的に、独創的な形と華やかな色遣いのデザインだ。杉本渚学芸員は「もっと純粋にワクワクする気持ちをデザインに取り込む新しいアプローチを追求した」と話す。
代表作の一つが、69年に伊オリベッティ社が発売したポータブル型タイプライター「ヴァレンタイン」。目が覚めるような赤が全体を彩り、内部の構造がむき出しになった大胆な意匠は、無機質なオフィス用品であるタイプライターのイメージを覆すものだった。
ソットサスは、国際的なデザイナー集団「メンフィス」の創設者としても知られる。81年に結成され、日本からインテリアデザイナーの倉俣史朗や建築家の磯崎新らが参加。デザインの規範を打ち破ろうとする一大ムーブメントに発展した。メンフィスのコレクションで発表したキャビネット「マラバール」(82年)は、金属板や木材など異素材を組み合わせたデザインが目を引く。半分は曲線状に加工された木材や黄色を基調としたプリント、もう半分には黒色の直線的なデザインがあしらわれ、左右で異なる表情を見せる。
陶器のデザインに集中的に取り組んだ60年代は、カウンターカルチャーやヒッピー文化が生まれた。ソットサスも61年にインドを訪れて以来、東洋の宗教哲学や文化に傾倒。67年には「ジッグラト」(神殿)や「ストゥーパ」(仏塔)を表題に入れた展覧会をミラノで開いた。今回も、当時展示された「オダリスク」など色とりどりの陶器を積み上げた巨大な柱が並ぶ。10月4日まで。

2026年7月13日 毎日新聞・東京夕刊 掲載