「クリスティーナ・オルソン」 1947年 マイロン・クニン・コレクション、ミネアポリス=平本絢子撮影

 アメリカの写実絵画を代表する画家、アンドリュー・ワイエス(1917~2009年)の回顧展「東京都美術館開館100周年記念 アンドリュー・ワイエス展」が、東京・上野の東京都美術館で開催中だ。テーマは「境界」。ワイエスは窓や扉などをモチーフに、そこにある光と影、生と死、自己と他者などに存在する境界を描いてきた。

 ワイエスがおよそ20年にわたってモデルとしたのが、米メーン州で出会って以来交流のあったオルソン家の姉、クリスティーナだ。進行性の病を患い、足が不自由になりながらも車椅子は使わず、自らの手を使って移動するなど自立心にあふれた女性だったという。

 彼女の名を題した「クリスティーナ・オルソン」(47年)は、台所仕事を終えたクリスティーナが、家の裏口の踏み段に腰を下ろした様子を描いたもの。クリスティーナは暗い室内と明るい屋外をまたぐように座り、外の光を受けて、髪を風になびかせながらどこか遠くを見つめている。光と影を巧妙に使った表現はワイエスならではで、クリスティーナは外と内の世界をつなぐ存在としてそこにいるのだ。「ゼラニウム」(60年)では、赤いゼラニウムが窓の内側に置かれ、室内にはクリスティーナが座っている。薄暗い台所と外の明るさが対照的に見えるが、クリスティーナの髪は日の光に照らされ、彼女が閉ざされた世界にいるわけではないと示している。

 ワイエスは91歳でこの世を去るまで、生まれ故郷の米ペンシルベニア州と、夏を過ごしたメーン州を舞台に、身近な風景と接点のある人々を描き続けた。中には、家族や友人らの姿を描かずして、その人物を暗示する作品も残している。「花びら」(91年)では、ワイエスが妻のベッツィと使っていた寝室の窓を描いた。近くに咲く花の香りが室内に入っていく様子を想像させ、その窓は夫婦と外の世界をつなぐ象徴のようでもある。

「花びら」 91年 ボストン美術館蔵=平本絢子撮影

 7月5日まで。同18日~9月23日まで豊田市美術館(愛知)、10月3日~12月6日まであべのハルカス美術館(大阪)に巡回予定。

2026年6月22日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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