作曲家にして画家。リトアニアを代表する芸術家チュルリョーニス(1875~1911年)は音楽と絵画、二つの領域で才能を発揮した。35歳で亡くなるまでに描かれた絵画は300点以上。国立西洋美術館(東京・上野)を会場にした「チュルリョーニス展 内なる星図」は、テンペラ画や版画など約80点を通して、音楽家の感性に満ちた造形的な革新性を伝える。
最大の特徴は、フーガやソナタといった音楽形式を絵画の連作に取り入れた点にある。チュルリョーニスは07~09年、集中的に両者の融合を試み、音楽の構造を応用することで絵画に時間の流れをもたらそうとした。計7作が知られる「ソナタ」連作のうち、5作目となる「海のソナタ」(08年)は3連画。波やあぶくがリズムを刻む「アレグロ」、三つの水平面に神秘的な世界が浮かぶ「アンダンテ」、そして帆船が大波にのまれる場面の「フィナーレ」で構成される。
オルガン奏者を父に持つチュルリョーニスは幼少期から音楽に触れて育った。ワルシャワ音楽院で作曲を学びつつ、次第に絵画の道を志すように。04年、28歳でワルシャワ美術学校に入学。ロシア帝国の支配下で民族解放の機運が高まる当時のリトアニアで、チュルリョーニスも運動に身を投じていく。「リトアニアの墓地」(09年)は伝統的な十字架のシルエットがリズミカルに並び、空に北斗七星が輝く。「民族の記憶と結びついた精神的な風景表現といえます」と同館の朝倉南研究員。
同時代の思想潮流に関心のあった彼は、人間の精神世界や宇宙の真理を巡る普遍的な作品も手がけた。代表作「レックス(王)」(09年)は日本初公開。水面の上の祭壇、地球の背後にそびえる山々、太陽、月などのモチーフが図式的に配され、多層的な画面がポリフォニー(多声音楽)の響きを奏でている。6月14日まで。

2026年5月25日 毎日新聞・東京夕刊 掲載