「彩雲渡る宝船」(2025年)個人蔵

【ART】
大阪で絹谷幸二追悼展
警鐘と希望 鮮烈な祈り

文:上村里花(毎日新聞記者)

現代美術

 昨年逝去した画家、絹谷幸二の追悼展が、絹谷幸二天空美術館(大阪市北区)で開かれている。生乾きのしっくいに顔料で描くアフレスコ画技法と現代的感覚を融合した独特の画風で知られる。赤や黄色、青など鮮やかで明るい色彩の印象が強いが、作品は常に人間や社会を見つめ、深い精神性を備える。

 1943年生まれ、奈良市出身。幼少期から画家を志し、東京芸大油画科に進学。同大大学院では壁画を専攻した。60年代の初期作品は沈んだ色調を基調としていたが、20代後半にイタリアに留学し、画風が一変。明るく鮮やかな色調とアフレスコ画技法の作品で注目を集めた。

 追悼展と常設展の2会場で作品計約40点を展示。自身が監修した3D映像やアトリエを紹介する仮想現実(VR)なども用い、作品世界を多角的に紹介する。追悼展では10年ごとの年代順に代表的な作品を並べ、半世紀以上に及ぶ画業を追う。

 「NELLASABBIA(砂の中)」(82年)は、イタリア留学後に確立した70年代の作風をさらに変化させる起点となった作品。特徴だった輪郭線を廃し、画面中央の愛し合う男女の輪郭線は砂に覆われている。平和を希求し、人間社会への警鐘を鳴らし続けたのが絹谷作品。本作でも男女の周囲には爆撃機や般若心経が描かれ、危うい世界に対する懸念と平和への思いが表れている。彫刻「ニューヨークの天使」(98年)は、涙を流す天使像の頭部に戦車が走り、翼には核弾頭を思わせるミサイルが挟まれている。混迷を極める現代社会を体現した天使。しかし、その背面には一輪の花がひっそりと咲き、かすかな希望が託されている。

 長年、温めてきた題材に70歳で挑んだ2枚組みの大作「無著(むじゃく)・世親(せしん)」(2013年)は目玉の一つだ。地元・奈良の興福寺の国宝「無著・世親菩薩(ぼさつ)立像」を描いた。創作の様子はNHK「日曜美術館」でも取り上げられ、話題を呼んだ。真っ青な背景に、厳しさと慈しみをたたえた2尊が複雑な色彩で立体的に表されている。

「無著・世親」(2013年、100号2枚組み)

 亡くなった年に制作された「彩雲渡る宝船」(25年)は、赤を基調とした明るい色彩の中で、笑顔の七福神が画面いっぱいに躍動。祝祭の気分があふれる。

 展覧会は色彩と精神性が交錯する絹谷作品の軌跡を一望できる機会となっている。6月29日まで。

2026年4月20日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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