「Skewed Lies(ねじれた噓)」(2010年)の展示風景=小松やしほ撮影

【ART】
身体と装置 動的実験
東京都現代美術館で笹本晃展

文:小松やしほ(毎日新聞記者)

現代美術

 一部屋、一部屋が舞台装置のようであり、何かの実験室のようでもあり。

 東京・清澄白河の東京都現代美術館で開催中の「笹本晃(あき) ラボラトリー」は、わくわくさせるたくらみに満ちている。

 笹本さんは1980年生まれ。10代で単身渡英し、その後、米の大学でダンスや美術を学んだ。現在はニューヨークを拠点に、パフォーマンスと造形作品の間を往還しながら制作。エール大学芸術大学院の教壇にも立つ。

 長い長い柄のナイフで、遠くからジャガイモを切ろうとしている女性--2005年に行われたパフォーマンス「cooking show」の一場面を撮影した写真だ。笹本さんは料理番組の撮影スタジオを見学し、料理を作る手元を大写しにする特有の演出に注目。それを強調して再現するパフォーマンスを考え出した。

 「笹本さんは初期の立体作品と自らの身体表現という形から、インスタレーションとして作り上げた空間に身を置きパフォーマンスするというスタイルを確立していった」と担当学芸員の岡村恵子さんは話す。

 「Skewed Lies(ねじれた噓(うそ))」(10年)は、ニューヨーク周辺の気鋭作家を集めて5年に1度開かれる「グレーター・ニューヨーク」展に出品した作品だ。虫取りランプが青く光る中、壁を背景に蚊帳が張られている。蚊帳を支えるアルミパイプは「ねじれの位置」に配置され、永遠に交わることのない幾何学的概念を空間に再現する。

 近年の作品では、インスタレーション自体がキネティック(動的)な要素を持ち始める。最新作「Sounding Lines(測深線)」(24年)では、空間に木彫りのルアーが付いたバネが張り巡らされている。かたわらのモーターが動く度に、バネは大きく波打ち、独特の音をたてる。Soundingには「水深を測る」と「音を鳴らす」の意味がある。見えないものを、音で明らかにしようとする試みにも思える。

「Sounding Lines(測深線)」(24年)の展示風景=小松やしほ撮影

 会期中には笹本さんのパフォーマンスも予定されている。笹本さんの動きが空間と融合した時、作品の見え方もまた変わるのだろう。11月24日まで。

2025年10月6日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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