土田ヒロミ<ヒロシマ・コレクション>≪ワンピース 寄贈者:髙瀬二葉 広島平和記念資料館所蔵≫2018年 ©Hiromi Tsuchida

 ピンクと紫の花柄のワンピース、8時15分で針が止まった懐中時計、ほほえむシャーリー・テンプル人形--。広島平和記念資料館(広島市)に収蔵された被爆者の遺品や資料を40年以上撮影し続ける写真家、土田ヒロミさん(85)の写真展「ヒロシマ・コレクション-1945年、夏。」が、大阪市北区の中之島香雪美術館で開かれている。被爆から80年の節目の年に、撮りためた作品から約160点を新たにプリントした。

 土田さんは39年、福井県生まれで、終戦時は5歳。写真家としては一貫して戦後の日本を主題とし、広島には75年ごろから通い始めた。当時は高度経済成長を経て、被爆の記憶が一般の人からは「見えなくなっていた」時期で、伝えていくことの重要性と使命を感じたと振り返る。復興の進む広島の街を撮る一方で、被爆資料を記録し続けている。

 資料の撮影は、光も形も作らないことを心がける。「脱・表現を徹底し、(写真家の)『土田』を出さないことが重要。その方が物そのものがよく見える」と語る。実際に展示写真はどれも、白い背景に対象物がカタログのように無機質に写し出されている。その代わり、一枚一枚に資料の持ち主の被爆当時の状況を記したテキストが付けられている。「表現者の視点」が入らないことで、鑑賞者が資料と対話し、持ち主がたどった道のりに深く思いをはせることになる。

 土田さんは「我々はあまりにも多くのことを忘れてしまっている」と語る。戦火はやまず、核兵器が拡散し続ける世界にあって、今一度、広島・長崎の経験を振り返り、現在の世界と相対することが必要だ、と。「特に子供たちに本展を見てもらいたい」と言い、学生服や子供服、おもちゃなど、子供に関連する写真を多く選んだ。小さな赤い人形は、学徒動員先で被爆し、13歳で亡くなった濱田満子さんの遺品で、母ミヨノさんが2003年に亡くなるまで大切に守ったものだ。生活の深部に入り込んだ被爆体験を現代の私たちの日常とつなぐ写真が並ぶ。9月7日まで。8月中は大学生以下無料。

土田ヒロミ<ヒロシマ・コレクション>《人形 寄贈者:濱田良子 広島平和記念資料館所蔵》2024年 ©Hiromi Tsuchida

2025年7月28日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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