
古来、さまざまなメタファー(隠喩)として使われてきた「舟」。この世からあの世へ、過去から現在、未来へ--時空を超えて移動する舟をテーマとした5組のアーティストによる展示「舟を呼び、舟に呼ばれる」が、京都市中京区のギャラリー「KYOTOba(京都場)」で開かれている。新作を中心に約65点。会場は京染の工房として使われていた大正時代の町家で、これ自体が一つの「舟」のようだ。
本展で大きな存在感を示すのが、正面奥に展示された中津川浩章さんのアクリル画「光の船団」(1・9㍍×約5㍍、2012年)。東日本大震災後に描いた作品で、白いカンバス全面に船があふれている。それは、津波後の混乱のようにも、また、活気ある港にも、希望を求めて新たな地を目指す船団のようにも見える。
会場入り口で出迎えるのは、安藤栄作さんの木彫「魂の帆」(25年)。手おの1本で木をたたいて造形するスタイルで、おのの打痕が作品のエネルギーを生み出す。安藤さんは1990年から福島県いわき市で創作を続けてきたが、11年の東日本大震災による津波で自宅も作品も全て失った。震災後、一家で奈良県に移住し、16年には個展「約束の船」を開催。丸木舟の中に横たわった男の腹部から天空に向けて立つ帆は、子をはらんだ女性のようにも見える。人類は「魂の帆」に導かれ、どこへ向かうのか。
「パラドックス」という語の由来にもなったギリシャの「テセウスの舟」にちなんだ嶋田ケンジさんのシリーズは木彫に見える陶芸作品。部品を入れ替えていった先に残った作品は、最初の作品と同じと言えるのか? 黒宮菜菜さんは古事記や古代の壁画などからインスピレーションを得た作品群。唯一、舟とは直接、関係のない米谷健+ジュリアさんの「明日の遺跡:礼拝像」(24年)は、西暦3600年にAI学芸員が発掘したとの設定で、架空の遺物を野焼きで造形した。土偶に似た「遺物」たちが手にスマートフォンを掲げた姿は神に祈りをささげるかのようだ。機械に操られている現代人への痛烈な批判がある。また、遺物たちはスマホで舟を呼んでいるようにも見える。

過去、現在、未来について思いを巡らすひとときとなる。6月15日まで。
2025年5月26日 毎日新聞・東京夕刊 掲載