「白の家」(1966年)の模型展示=小松やしほ撮影

 住宅設計に熱意を傾けた建築家、篠原一男(1925~2006年)の生誕100年を記念し「篠原一男 空間に永遠を刻む--生誕百年 100の問い」が、東京都港区のTOTOギャラリー・間で開催されている。彼の作品が今も受け継がれている意味、すなわち永遠性を問う。

 篠原は東京理科大の前身である東京物理学校で数学を学んだのちに建築に転向し、東京工業大(現・東京科学大)の建築科に学士入学したという異色の経歴の持ち主。東工大では清家清に師事した。卒業後は「プロフェッサーアーキテクト」として、同大で教壇に立ちながら設計を行った。「篠原スクール」と呼ばれる、その教えに影響を受けた建築家には、坂本一成さん、伊東豊雄さん、長谷川逸子さんらが知られる。篠原は早くから「住宅は芸術である」と唱え、個人住宅を中心に建築作品をつくった。

 「篠原は時代ごとに自分の建築のテーマを決めている」と、本展のキュレーターの一人で建築家の貝島桃代さんは解説する。日本の伝統建築を問うた「第1の様式」、空間を検討した「第2の様式」、周辺の環境をどう取り込むかをテーマにした「第3の様式」、都市風景の中での建物の輪郭線を検討した「第4の様式」。展示は「様式」に沿って構成される。

 最初の展示室では、スイスの家具メーカー「ビトラ」が継承し、現在バーゼル近郊にある工場兼ショールームに移築された「から傘の家」(61年)や、天井や壁が真っ白に仕上げられ、中心を外して広間と寝室が分割されているのが特徴的な「白の家」(66年)、地下にアリの巣のように延びた寝室を持つ「地の家」(66年)、詩人・谷川俊太郎さんの別荘「谷川さんの住宅」(74年)など、第1から第3の様式の作品が紹介される。

「から傘の家」(61年)の模型展示=小松やしほ撮影

 第4の様式の代表作、自邸兼アトリエ「ハウスインヨコハマ」(85年)は上階の展示室で。「第5の様式」を予感させる未完の遺作、「蓼科山地の初等幾何」(06年)のスケッチや貴重なインタビュー映像、デザインにこだわった著書も紹介される。

自邸兼アトリエ「ハウス イン ヨコハマ」(85年)のスケッチなど=小松やしほ撮影

 篠原は建築作品だけではなく、著作や寄稿で多くの印象的な言葉を残した。本展ではその中から100の言葉を選んで掲示するとともに、「問い」として、80年以降生まれの建築家や歴史家、哲学者など100人に投げかけ、応答の言葉を寄せてもらった。来場者に配布される印刷物でその往還を読むことができる。

 本展は回顧展ではないという。単に篠原の実践を追うのではなく、いま何が残されているかに焦点を当てた。残されたものから何を読み取るかはそれぞれに託される。6月22日まで

2025年5月21日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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