
住まいは暮らしの基礎である。より快適に、住みやすく。東京・六本木の国立新美術館で開催中の「リビング・モダニティ 住まいの実験 1920s―1970s」では、名だたる建築家が名作といわれる住宅で実践した、あくなき探究を解き明かす。
展示室に足を踏み入れると、まず白い横長の窓(の模型)が目に入る。ル・コルビュジエが両親のために建てた「ヴィラ・ル・ラク」(1923年)の水平連続窓を再現したものだ。スイス・レマン湖畔に建つこの家の窓からは、湖とその向こうに連なるアルプスの山々が望めるというが、模型の窓からは、展示室の全景を見渡すことができる。
本展では「ヴィラ・ル・ラク」をはじめ、藤井厚二「聴竹居」(28年)▽ルートヴィヒ・ミース・ファン・デル・ローエ「トゥーゲントハット邸」(30年)▽土浦亀城「土浦亀城邸」(35年)▽菊竹清訓、紀枝「スカイハウス」(58年)▽ルイス・カーン「フィッシャー邸」(67年)――など14邸を模型や図面、写真、映像などで紹介し、衛生・素材・窓・キッチン・調度・メディア・ランドスケープという七つの視点で考察する。

広々とした展示室内には、隔てる仕切りはなく、決められた順路もない。各展示は「島」のように点々と配置されつつ、七つのテーマで緩やかに連関している。端から順番に回るもよし、壁や天井から下がるタペストリーが示すテーマを追うもよし、作品を見比べながら、あちらへこちらへ、自由に島を渡り歩く構成が楽しい。
2階の入場無料のスペースに展示されたミースの未完のプロジェクト「ロー・ハウス」の原寸大模型は見どころ。クラウドファンディングで資金を募り、この展示物の制作が実現した。「コートハウス」と呼ばれる中庭を持つ平屋建築で、居室にあたる空間には、ミースデザインの「バルセロナチェア」などの家具が置かれ、中庭部分の照明は1日の移ろいを表して、一定の時間で変化していく。
住まいの豊かさとは何か。理想の家に思いを巡らせたくなる。6月30日まで。
2025年5月19日 毎日新聞・東京夕刊 掲載