
なにを着たいのか、どう着たいのかという問いは、「私はどうありたいのか」という問いに行き着く。ファッションを巡ってたくさんの人が心のなかで重ねた自問自答を「LOVEファッション--私を着がえるとき」展(東京・初台の東京オペラシティ・アートギャラリー)は、ファッションとアートの往還によって見せようとする。
18世紀の宮廷服から始まるファッションの歴史を紹介しつつ、共鳴する現代美術の作品を織り込む展示構成。「自然にかえりたい」「きれいになりたい」「ありのままでいたい」「自由になりたい」「我を忘れたい」という五つの欲望を冠した章立てによって進んでいく。
最初の章では、植物柄の刺しゅうをしたウエストコートや、人工・天然の毛皮のコート。鮮やかな鳥の羽根を用いた帽子もある。かたわらには、黒々とした人毛を編んで作った小谷元彦さんのドレスがあるが、軽やかな「自然」に反して身体にまとわりつくようだ。
アートとファッションを最も近しく感じさせるのはドレスだろう。規範的な美を追求するか逸脱するかにかかわらず、彫刻的なボリュームや造形は共通する。同じ造形的なドレスでも、川久保玲さんがバージニア・ウルフの小説「オーランドー」をテーマにデザインした衣装を紹介するあたりで、アイデンティティーと深く結びつく作品が増えてくる。
性の越境と異性装に関するこの小説を例に出すまでもなく、現代においてアイデンティティーはいっそう流動的になっている。繭のような素材を使ったヨシオクボのコスチュームや、異なる都市によって背負う「やど」を着がえるAKI INOMATAさんの彫刻作品「やどかりに『やど』をわたしてみる」などが並ぶ。

では、装いの果てに残るものは何だろう。原田裕規さんは、他者の人生の語りと自分の声が混じり合う映像作品「シャドーイング」を出品した。「誰かになりたいとか、より自分らしくありたいとか、何かになりたいと思って遠くに旅した結果、自分の影と再会してしまった感覚がある」。作品に関して原田さんが語った言葉は示唆的である。衣服は京都服飾文化研究財団(京都市)の所蔵。6月22日まで。
2025年5月12日 毎日新聞・東京夕刊 掲載