フアン・サンチェス・コターン「マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物」(1602年ごろ、サンディエゴ美術館蔵)=提供写真
フアン・サンチェス・コターン「マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物」(1602年ごろ、サンディエゴ美術館蔵)=提供写真

【ART】
西洋絵画 楽しむヒント
東京・国立西洋美術館で企画展

文:小松やしほ(毎日新聞記者)

西洋美術

 絵画のどこをどう見ればいいのか分からないという理由から、美術展に対して苦手意識を持っている人もいるだろう。東京・上野の国立西洋美術館で開催中の「西洋絵画、どこから見るか?―ルネサンスから印象派まで」には、作品をどのように見ると楽しめるのか、鑑賞のヒントがちりばめられている。

 展示室に入って最初に目にするのはルネサンス期の宗教画、ジョット「父なる神と天使」だ。絵画は〝四角い〟ものという思い込みを覆す三角形の木板にイエス・キリストを頂点に、見上げるように左右に3人ずつ天使が描かれている。この作品の「どこ見るポイント」は、「四角形でないその理由とは?」。続くアンジェリコ「聖母子と聖人たち」、シニョレッリ「聖母戴冠」、いずれの作品も四角形ではない。なぜか。解説文が分かりやすく教えてくれる。

 本展では、ルネサンス▽バロック▽18世紀▽19世紀――と時代を追った章立ての中に、30を超える小セクションを設け、80点を超える作品をペア、あるいは小さなグループに分けて展示している。担当する川瀬佑介・主任研究員は「比べることによって、それぞれの作品の特徴や共通する要素が見えてくる」と話す。

マリー=ガブリエル・カペ「自画像」(1783年ごろ、国立西洋美術館蔵)=提供写真
マリー=ガブリエル・カペ「自画像」(1783年ごろ、国立西洋美術館蔵)=提供写真

 どこ見るポイントとして「旅のお土産に、アイコニックな一枚を」の言葉が添えられた、18世紀ベネチアの風景を活写したベロット、グアルディの作品を見れば、当時の人々が観光地の土産あるいは思い出として絵画を求めたことが想像できるし、「それぞれの勝負服」とあれば、いやが応でも、カペ「自画像」やブノワ「婦人の肖像」、ナティエ「マリー=アンリエット・ベルトロ・ド・プレヌフ夫人の肖像」のモデルたちが身に着けているドレスに目がいく。

 「ボデゴンの最高傑作!」と紹介されるサンチェス・コターン「マルメロ、キャベツ、メロンとキュウリのある静物」は本展のハイライト。漆黒の背景に浮かび上がる野菜。キャベツの葉脈やメロンの種まで緻密に描かれ、静謐(せいひつ)な雰囲気をたたえる。

 好きなように見て、感じるのが美術作品の真骨頂だが、鑑賞の手助けをしてもらえると、作品にさらに一歩近づける。6月8日まで。

2025年4月21日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする