重要文化財の伊藤若冲筆「鹿苑寺大書院障壁画 一之間 葡萄小禽図」 鹿苑寺蔵

【ART】
京で連綿 豊かな文化圏
東京芸大美術館で相国寺展

文:高橋咲子(毎日新聞記者)

日本美術

 東京では関西の寺院の名称を冠した展覧会が毎年のように開かれる。関東の人たちはこの出開帳にいそいそと出掛けるのだが、そのたび京都・奈良を中心とした文化の厚みを実感する。東京・上野の東京芸術大学大学美術館で開かれている相国寺展もその一つ。相国寺(京都)を中心とした文化の広がりを「相国寺文化圏」と名づけ、中世から近世にかけて絵画史においても大きな存在感を放ったことを示すものである。

 相国寺は足利義満が1382(永徳2)年に発願して創建された禅宗寺で、塔頭たっちゅうに鹿苑寺(金閣寺)や慈照寺(銀閣寺)も含まれる。「奇想の画家」と言われる伊藤若冲(1716~1800年)も相国寺文化圏にいた一人。確かに「奇想」には違いない。だが、そこに近現代的なアーティスト像を重ねると誤解が生じる。本展を見ると、若冲の絵画の背後には中国・朝鮮の文化があり、相国寺文化圏を通じてこの文化を吸収していたことがよく分かる。

 第2章には伝呂紀りょきの花鳥画をはじめ16、17世紀の中国絵画の名品が並ぶ。鮮やかな色彩で精緻に描かれた花鳥画に、若冲の代表作「動植綵絵さいえ」を思い出す人も多いだろう。相国寺などの寺院は絵画学習の場でもあった。

 若冲は相国寺の僧、梅荘顕常(大典和尚)の推薦を受けて、44歳で50面に及ぶ鹿苑寺大書院の障壁画制作を担った。本展ではそのうち「葡萄小禽ぶどうしょうきん図」と裏面の「松鶴図」、「双鶏図」を見ることができる。さまざまな筆法を用いており、若冲が墨の巧みな使い手でもあったことを思い出させてくれる。また、傍らでこぢんまりと上映されるCG映像も外せない。大書院の復元映像は、障壁画を空間で感じさせる貴重な手がかりになる。

重要文化財の伝俵屋宗達筆、烏丸光広賛「蔦の細道図屛風」(右隻) 相国寺蔵

 本展は相国寺承天閣美術館の開館40周年を記念して開催された。展示室に並ぶ美術品は単なる収集品ではなく、相国寺という場で興った文化的営みそのものだと言える。

 最後の章では、伝俵屋宗達「つたの細道図屛風びょうぶ」(後期のみ)や円山応挙「七難七福図巻」など旧萬野美術館(大阪)を代表する作品にも再会できる。同美術館閉館後の2004年に一括して寄贈を受けたもので、相国寺の長い営みが現在も続いていることを伝えてくれる。5月25日まで。

2025年4月14日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする