青木きらら「わたしたち生きてますのでどうかご心配なく」(2024年)の展示=撮影・守屋友樹

 作品タイトルは「わたしたち生きてますのでどうかご心配なく」。額面通り受け取るわけにはいかない言葉だ。もしあなたも「まあまあ最悪」な世界の住人なら、なおのこと。言葉の向こうにある痛みを見なかったことにはできない。

 色鮮やかな切り紙作品が、ビル2層分の吹き抜け空間に展示されている。ウインドーには「これはたったひとりの女性の物語でありながらすべての女性の物語でもあります」との文字。美術作家の谷澤紗和子さんと小説家の藤野可織さんによるユニット「青木きらら」が手がけた。

 共作は4回目。今回初めてユニット名を決めた。由来は『青木きららのちょっとした冒険』(2022年、講談社)。さまざまな抑圧を受ける8人の「青木きらら」を通して、「まあまあ最悪」なこの世界を描いた藤野さんの短編集だ。時事性やメッセージ性を強く持ちつつ、物語としての完成度も高い作品に感銘を受けた谷澤さんは、同時に「私たちって『青木きらら』だよな」とも思った。谷澤さんの造形と藤野さん書き下ろしの言葉による作品では、小説から飛び出した物語が独自の広がりを見せている。

 いびつな丸や四角の切り紙は「お面」だという。「顔」の表現はさまざまだが、「女性表象と取られるものは避けた」(谷澤さん)。取り換え可能なお面は「誰かであり、誰でもある」というきららを表現しながら、見る人を社会に求められる役割から解放する力も秘める。

 会場は京都・四条のホテル「BnA Alter Museum」にある「SCG(ステアケースギャラリー)」。階段室を上りながら鑑賞する高さ30㍍の縦長ギャラリーで、五つの展示空間がある。現在は、全くアプローチの異なる5組の作家による展覧会「多声性のトーチ」を開催中だ。

 「わたしたち--」は最上部の外階段に展示されている。眼下の河原町通には絶え間なく人や車が行き来し、通りの向こうにはビルや住宅、そして小さな墓地が見える。現実の喧噪(けんそう)が「借景」となり、きららたちの世界は切実さを増す。5月11日まで。

青木きらら「わたしたち生きてますのでどうかご心配なく」(2024年)の展示=撮影・守屋友樹

2025年4月7日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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