タペストリー「奇妙な鳥と牡牛」(1957年)=奥=と、「静物」(65年)の展示 小松やしほ撮影

 近代建築の巨匠として知られるル・コルビュジエ(1887~1965年)。建築家としての名声があまりにも高いためにかすみがちだが、コルビュジエは芸術家としても、絵画や彫刻など多様な作品を残した。その円熟期の作品に焦点を当てた「ル・コルビュジエ--諸芸術の綜合(そうごう)1930-1965」展が東京・新橋のパナソニック汐留美術館で開かれている。コルビュジエが40代以降に手掛けた絵画や素描、彫刻、タペストリーなど約90点や写真資料を紹介、その芸術観を明らかにしようと試みる。

 コルビュジエ(本名シャルル・エドゥアール・ジャンヌレ)は、スイス北西部のラ・ショー・ド・フォンに生まれ、地元の美術学校に学んだのち、30歳でパリに定住する。翌年、画家アメデ・オザンファンと親交を深め、キュビスムを批判的に継承した「ピュリスム」を宣言。10年ほどピュリスムのもと絵を描き、30年以降は午前中は絵を描き、午後は建築の仕事をしたという。

 まず目に留まったのは、巻き貝や二枚貝を描いた素描。素朴なようで、よく見れば不思議なその形に、コルビュジエは何をみたのだろうか。

 4章構成の第1章「浜辺の建築家」では、コルビュジエが抽象芸術の触媒として、自然をどう捉えていたかを明らかにする。30年ごろのパリ芸術界では大恐慌を経験し価値観が一変、自然への関心が高まっていた。コルビュジエも、休暇を過ごす海岸で、貝殻や流木などを熱心に集め、それらを「詩的反応を喚起するオブジェ」と名付け、創作の着想源とした。

貝殻をスケッチした「貝」(制作年不詳)=左=と、「漁師、犬、貝」(同) 小松やしほ撮影

 続く「諸芸術の綜合」では、コルビュジエが生涯を通して探求した、建築、絵画、彫刻を統合しようとする取り組みに着目した。見どころは、色遣いが大胆な縦2㍍超、横3㍍超の大型タペストリー。コルビュジエはこれらを絵画より建築に近い作品と位置づけ「遊動する壁画」と呼んだ。

 3章、4章では絵画の集大成である「牡牛」シリーズの晩年の3点や、あまり評価されていなかった執筆活動についても紹介している。23日まで。

2025年3月10日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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