
<3月1日開幕>
◇内藤栄館長に聞く意気込み より愛される館へ
大阪市立美術館(大阪市天王寺区)が約2年5カ月におよぶ過去最大規模の改修を終え、3月1日、リニューアルオープンする。国の登録有形文化財に指定されている建物の外観は保ちつつ、最新の展示設備を導入し、無料ゾーンやカフェを新設。お披露目の再開記念展「What’s New! 大阪市立美術館 名品珍品大公開!!」(3月30日まで)では、約8700件のコレクションの中から、重要文化財6件を含む約250件を展示する。1936(昭和11)年に国内3番目の公立美術館として開館して以来、約90年。人々に親しまれてきた大阪市美の新たな出発について、内藤栄館長に聞いた。

◇空間をひらく 時間をひらく
--「ひらかれたミュージアム」というリニューアルのコンセプトには、どんな意味が込められているのですか。
◆美術館は美術品を見て楽しむ場所だという基本は変わらないのですが、それだけじゃない楽しみもあっていい。そこで今回、展示室以外の館内をほぼ無料ゾーンにしました。
「お茶でも飲もう」でもいいし、建物を見よう、ミュージアムショップをのぞこう、ソファでくつろごうでもいい。もっと美術館で過ごす時間を持っていただきたいんです。場所を「ひらく」というだけでなく、皆さんをウエルカムする気持ちを表したいと考えています。

時間的にも「ひらき」ます。年間300日開館、つまり毎週月曜の休館日と年末年始以外は開ける。改修前の当館は、特別展と特別展の間は休館にしていましたが、「来てみたら閉まっている」では、やっぱりダメ。その間も、企画展示(常設展示)は休まず行います。
美術館にとって一番の基本である「作品をきれいに見せる」機能も格段に向上しました。特にガラスケースは非常にクオリティーが高い。作品の魅力を最大限に引き出す環境を整えられたと思います。

--リニューアル記念展はコレクションで構成するのですね。
◆コレクションこそ美術館の「個性」だと私は思っています。初めてここへ来たのは18歳の時。常設展示で見た石仏に感動したことを、今でも覚えています。東京や奈良の国立博物館にもない素晴らしいコレクションが、当館にはある。外から作品を借りてくる特別展にどうしても注目が集まりがちですが、コレクションを楽しむ習慣がもっと広がる流れを作っていけたらと思っています。
当館のコレクションの魅力は、言い尽くすのが難しいほど多様です。開館当時に決めた収集方針が、洋の東西、時代の新旧を問わず、ファインアートから工芸まで、つまり「何でもあり」だったおかげで、美術館としては珍しい、非常に多種多様なコレクションが形成されました。
美術品を愛する関西の財界人を中心に、目利きのコレクターが寄贈や譲渡してくださったものが多いのも特徴です。中国美術の「山口コレクション」に中国書画の「阿部コレクション」、仏教美術の「田万コレクション」。住友家の後押しで、当時の一流画家たちに制作を依頼した日本画「住友コレクション」などもあり、どれも一級品ぞろいです。
--内藤館長の〝推し〟は。
◆難しい質問ですが……「金銅三鈷鈴(さんこれい)」を挙げたいと思います。密教で用いる道具で、中国・唐時代の古い姿を映す、非常に珍しい形をしています。見ていただきたいのは上部の弧。三日月のようなカーブの、力強く美しいことといったらありません。空海はこういうものに囲まれて、弟子たちに密教を教えていたのだと思います。

「田万コレクション」の一つなんですが、ご寄贈くださった弁護士・田万清臣氏も素晴らしい目利きでした。氏のもとに持ち込まれた作品を東大寺からの盗品と見抜き、犯人検挙に一役買ったという逸話もあるぐらいです。私は前職が奈良国立博物館なのですが、その頃は「なんで奈良博に寄贈してくれなかったんだ」と、悔しい思いをしていたんですよ(笑い)。
多くの方々に支えられてきた当館ですが、今もそれは変わりません。近年も非常に貴重な作品のご寄贈を受けました。皆さんから愛されている美術館なのだと実感し、大変うれしく思うと同時に、コレクションを守り、育てていく責任を改めて感じています。
■人物略歴
◇内藤栄(ないとう・さかえ)氏
1960年、埼玉県生まれ。筑波大大学院博士課程芸術学研究科退学。専門は仏教工芸史。サントリー美術館を経て奈良国立博物館へ移り、工芸室長や学芸部長を歴任。26年にわたり「正倉院展」を担当した。2022年から現職。
2025年2月27日 毎日新聞・大阪朝刊 掲載