青木野枝さんの「ふりそそぐもの/朝香宮邸-Ⅰ」(2024年、鉄、ガラス)=小松やしほ

 鉄を素材に用いながらも重さを感じさせない軽やかな彫刻で知られる青木野枝さん(1958年生まれ)と、風景に溶け込みながら光の輪郭を描き出す無色透明のガラス作品をつくり出す三嶋りつ恵さん(62年生まれ)。ともに現代美術の第一線で活躍を続ける作家の2人展が、東京都庭園美術館(東京都港区)で開かれている。

 同美術館は旧皇族の朝香宮家の邸宅として33年に建てられた。内装には当時流行したアールデコ様式が取り入れられている。鉄とガラスは館内の随所でも装飾に使用されており、時を超えて互いに響き合い、調和を醸し出す。

 最初の展示室で待っていたのは三嶋さんの「光の海」(2024年)。天井のアールデコと日本様式が混ざったようなライトに心を打たれ、その数に合わせた約40点の作品を光の台座に並べた。形は植物のようだったり、巻き貝のようだったり。降り注ぐ光や周囲の色をとらえ、解き放つ。「昔と現代に放つ光で対話できるような空間にしたかった」と三嶋さん。「宇宙の雫(しずく)」(22年)は、連なったガラスの玉が天空からそっと降ろされたよう。見る角度によって輝きを変え、不思議なきらめきをたたえる。

三嶋りつ恵さんの「光の海」(2024年、ガラス)=小松やしほ

 青木さんの「ふりそそぐもの/朝香宮邸-Ⅰ」(24年)は輪になった鉄をつなぎ、おわん状に組み上げた。所々にはめ込まれたガラスの色は赤。普段用いるのは透明なもので、赤を使うのは被爆の地であり、自らのルーツとも関係する長崎(での個展)でだけだ。しかし今回は、同邸が建ったころの世界情勢と現在のイスラエルやレバノン、ウクライナの状況を重ね合わせ、「絶対に赤を使いたかった」という。1階に展示されている「ふりそそぐもの/朝香宮邸-Ⅱ」「ふりそそぐもの-赤」(いずれも24年)も赤いガラスを使っている。

 2人は幾度も同美術館を訪れ、展示プランを練ったという。今その一瞬の光に思いをはせる、本展にはそんな特別な空間が広がっている。「そこに光が降りてくる 青木野枝/三嶋りつ恵」展は2月16日まで。

2025年1月20日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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