毎日書道展が「第75回」という節目の年を迎えた。書の魅力を戦後の混乱期から今なお発信し続けている。全国10会場を巡り、さらに5都市で巡回展を開いた。特別展示として「墨魂の群像-毎日の書48人」も企画された。「現代の書」を掲げた歩みが、より力強く次の時代へと進んでいくために、出品規定が見直された。漢字部はⅠ類が「本文21字以上」から「本文15字以上」、Ⅱ類が「本文3~20字」から「本文2~14字」となった。漢字作品の現代化がどのように進んでいくのか注目し続けたいと思う。
国際高校生選抜書展(書の甲子園)の入賞審査が初めてインターネットで生中継された。審査の透明性と時代のIT化を見据えた対応だった。
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ベテラン書人の企画性あふれる個展が開かれた。髙橋古都の書(3月)▽藤野北辰書作展(3月)▽柴山抱海展(4月)▽赤池艸硲(そうこく) 書のあゆみ(4月)▽遠藤彊篆刻(てんこく)展(5月)▽石井明子書作展(6月)▽慶徳紀子書展「間」(7月)▽坂本素雪こころの書展(7月)▽山本大廣展 書の在處(ありか)-文字形象(10月)などだ。ほか、中嶋玉華書展(3月)▽三浦鄭街書展(4月)▽中川菖春書作展(5月)▽友葭良一展(7月)▽渡瀬英仁書展(8月)▽大辻多希子書展(8月)▽浅田聖子書展 in KANAZAWA(9月)なども印象に残った。
愛媛独立書展 三浦白鷗、篠原茂徳個展コーナー(6月)▽金子大蔵・川本大幽 二人展(7月)は好敵手同士が火花を散らした。会派を超えた試みとして、墨輪会と九州で書を愛する人たちの展覧会「墨輪九州交友展」が開かれた。
追悼・柿下木冠近作展2024(2月)▽生誕180年記念 呉昌碩の世界(1~3月)▽大楽華雪遺墨展(4月)▽生誕110年歿後(ぼつご)50年 徳野大空を中心に(4~6月)は、優れた先人について再考を促した。創玄を牽引(けんいん)した13人の書(3月)▽今をえがく書かながわ(3月)も時代をリードした書人たちの業績を明らかにした。
前衛書の今を問い掛ける企画が目立った。
「日本前衛書作家協会(1957-59)に注目」展(1月)▽書道芸術院前衛書展(10月)▽比田井南谷展(10~11月)などだ。前衛書が歴史を刻む中、髙橋進著『比田井南谷』の刊行は時宜を得ていた。近年、香港のM+美術館に作品が収蔵され、今年は東京画廊+BTAPがスイスのアートバーゼルに出展するなど、世界的な評価が高まっている南谷の国内での再評価は、前衛書の未来への大きな課題だろう。
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古典文学への深々とした教養を基盤に新感覚の大字かなを問うた山﨑暁子さんをはじめ、矢萩春恵さん、渡辺墨仙さん、松本暎子さん、寺井朴堂さん、大田左卿さん、遠藤枝芳さん、高尾秀嶽さん、豊田法子さん、近藤春湖さん、藤澤麦草さん、石井駿さん、那須大卿さん、佐久間康之さん、荒金大琳さん、三浦白鷗さんらが死去した。
視力を失いながら書の創作を続ける三上栖蘭さんが第75回毎日書道展に「光明」を出品した。今の自分を表現したいと筆をとり、助けを借りながら書き上げた。「書く」とは、どういう行為なのかを突き詰めた挑戦となった。自らの心にひっかかったものを、紙などの上に引っ掻(か)いて残す。デジタル時代にこういう営みが続いていること自体が奇跡と言えるのかもしれないだろうから。
2024年12月25日 毎日新聞・東京夕刊 掲載