印象派ふうのタッチで2002年に描かれた赤瀬川原平さんの自画像=高橋咲子撮影

【ART】
映し合う「自己」と時代
東京・銀座で「自画像」展

文:高橋咲子(毎日新聞記者)

現代美術

 自身の内面だけでなく、時代を映す自画像の魅力を伝える「自画像:Reflections」展が東京・銀座のギャラリー58(03・3561・9177)で開催されている。

 「自画像★2012」展から12年。前回展にも参加した、赤瀬川原平、秋山祐徳太子、石内都、篠原有司男、田中信太郎、中西夏之、中村宏、吉野辰海の各氏の作品が並ぶ。「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」メンバーをはじめ、戦後の前衛的動向をリードしてきた作家ばかりだ。

 新作を出品したのが吉野さんと石内さん、篠原さん。吉野さんは、自身を表した頭像と、仮面というよりお面と呼びたくなるような東洋的味わいの面を組み合わせて軽やかに展示した。制作の背景について「今の時代はみんな仮面の状態でコミュニケーションをしている」と話す。

白内障の手術の後に描かれたという篠原有司男さんの作品の前で語り合う、石内都さん(左)と吉野辰海さん=高橋咲子撮影

 石内さんの写真は、鏡に映り込んだり、影を捉えたりしたもの。自身にレンズを向ける通常のセルフポートレートとは趣を異にする。「(出品作はどれも)反射の一つ。写真は自分のリフレクション(反射)だと思っているから、そういう意味では変わりはない」と言う。

 16年に死去した中西さんの「光の顔の朝」は、作家が残した唯一の自画像だという。カラーコピーとパンチングによる大小の穴で写真に層を重ね、朝の光のなかに立つ中西さんが、現実と非現実の間を往来するような感覚をもたらす。

 赤瀬川さん(14年に死去)の作品は、高校生の時、02年、そして脳内出血後の12年に描かれた4点の自画像。ギャラリー58の長崎裕起子さんは「赤瀬川さんは多彩な活動をしていたにもかかわらず、肩書を『画家・作家』としていた。その画家としての最初と最後の絵でもある」と説明する。ときどきで筆致もスタイルも異なるが、自身を見つめる透徹した目は一貫している。

 図録に解説を寄せた前大分市美術館館長の菅章さんは「セルフィー(自撮り/自撮りした写真)に対する意識が大きく変わっているように、12年前とは社会背景も変化している」と指摘。時代もメディアも手法も違う作品が交じり合い、「改めて自画像にフォーカスした企画はおもしろい」と話していた。27日まで。

2024年12月9日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする