「Ame-tsuchi2」2024年 撮影:福永一夫、画像提供:アートコートギャラリー

 亀裂を特徴とするダイナミックな造形で宇宙の根源に迫るような表現を生み出してきた陶芸家、秋山陽さんの個展「未(ま)だ生まれない…」が、大阪市の「アートコートギャラリー」で開かれている。約20年ぶりとなる新たなタイトル「Ame-tsuchi」を冠した新作は、天と地の間で循環を繰り返す有限の生命と、そこに流れる無限の時間を感じさせる。

 大地が隆起したような荒々しい亀裂が交差し、ねじれながら上へと伸びる。ふつりと切れた二股の先には、空に向かう幹が枝葉を広げているのだろうか。太古の地層で眠る古生物のような不思議な円すい形は、人間の物差しをはるかに超える長い時間がかたちとなって目の前に表れたかに見える。

 「Ame-tsuchi」で意識したのは、垂直方向の展開だという。光を求めて上へ上へと伸びるだけでなく、地中深くに根を張ることで生きている樹木。双方向に働く力は、重力とそれに逆らう力でもある。「自分の足の裏に感じる大地の一部を取り出し、人為的操作を加えて今ここにはない何かを作りだそうとしてきた」作家にとって、観念的にも制作上でも、重力は常に意識のただ中にあった。

 普通は欠陥と見なされる亀裂を、表現に取り入れたのは1980年代。バーナーであぶった土の表面に亀裂が走る瞬間を目にし、「人知を超えた何かを感じ、土の素顔を見たような、土が発する地声を聞いたような気がした」。意識は徐々に奥へと向かい、見えるものと見えないものをつなぐ「通路」として、亀裂を表現してきた。「Ame-tsuchi」では従来の陶土に磁土を加え、焼成後に研磨を加えるなど新たな試みを実践。独特の光沢は重厚な中に軽やかさを生んでいる。

 京都市立芸術大で陶芸を専攻した選択は「ある意味消極的で、危ういものだった」。それゆえに「なぜ土なのか」と素材以上の意味を考え、突き詰めてきた。「現象として土が発するものと自らの意識がせめぎ合い、融合する。それをずっとやってきている気がします」。14日まで。

新タイトル「Ame-tsuchi」の3作品と秋山陽さん=山田夢留撮影

2024年12月2日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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