大賞(宇部市賞)「Press block」渡久地佑弥=山口県宇部市で2024年10月26日、上入来尚撮影

第30回UBEビエンナーレ
彫刻×自然 60年余の歩み

文:上村里花(毎日新聞記者)

現代美術

 第30回UBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)が山口県宇部市野中のときわ公園UBEビエンナーレ彫刻の丘で開かれている。1961年に国内最大規模の野外彫刻展として始まり、隔年で開催。彫刻家の登竜門として知られ、今春には「最も長く続いている野外彫刻展」として、ギネス世界記録にも認定された。会場には、入賞作品9点と1次審査通過作品の計15点のほか、過去の大賞作品も展示されている。湖を望む丘で彫刻との対話を楽しんで。入場無料。(敬称略)

大賞(宇部市賞)「Press block」渡久地佑弥=山口県宇部市で2024年10月26日、上入来尚撮影

 ◇Press block

 大賞(宇部市賞)賞金500万円

 渡久地佑弥 2000年生 福岡県

 400(高さ)×210(幅)×210(奥行き)㌢・コンクリート、鉄筋

 丘の上にぽつんと立つブロック。周囲を取り囲んだ空気に押され、あらがいながら自らの形を保ち、雄々しく立ち続ける。そんな孤独な姿が、青空の下ではすがすがしく、いとおしい。ソンナモノニワタシハナリタイ。

UBE株式会社賞「IMAGINE」藤井浩一朗=山口県宇部市で2024年10月26日、上入来尚撮影

 ◇IMAGINE

 UBE株式会社賞 賞金400万円

 藤井浩一朗 1963年生 東京都

 296×135×91㌢・大理石

 発芽した芽のようなフォルム。あたかもはるか昔からそこに存在していたかのように。そっと手を触れる。大理石に眠る太古の貝や動物たちを通し、生命を生み出し育む地球と対話する。時が、静かに流れる。

毎日新聞社賞「十二の物語」小笠原伸行=山口県宇部市で2024年10月26日、上入来尚撮影

 ◇十二の物語

 毎日新聞社賞 賞金100万円

 小笠原伸行 1955年生 千葉県

 197×365×320㌢・耐候性鋼板(サビだし)

 思いをのせた12通の手紙。折りたたまれた紙が物語をはらみ、たたずむ。赤茶けた姿は、ずっと以前からそこに在ったようにも、今まさに紡がれたようにも見える。希望を届ける先は、戦地、だろうか。

山口銀行賞「THE FOREST GOWN」石上和弘=山口県宇部市で2024年10月26日、上入来尚撮影

 ◇THE FOREST GOWN

 山口銀行賞 賞金100万円

 石上和弘 1966年生 静岡県

 320×345×235㌢・杉材、銅板、鉄材など

 ふっと木の香りが漂う。ガウンをまとうように大木に抱かれ、見上げると青空がぽっかり浮かんでいる。ゴツゴツとした表皮一枚一枚が編み込まれ、生命の勢いのまま、木は天へと伸びゆく。

宇部商工会議所賞「フリーエア」ファン・ユジョン=山口県宇部市で2024年10月26日、上入来尚撮影

 ◇フリーエア

 宇部商工会議所賞 賞金50万円

 ファン・ユジョン 1974年生 台湾

 300×193×179㌢・ステンレス、真ちゅう

 海底に突き刺さったエアボンベから、バブル(泡)がぷかり。銀色に輝くバブルの中には芝生や青空が映り込み、小宇宙を創り出す。海の底と丘と空と人が一体となり、新たな未来に向かい、進み行く。

島根県吉賀町賞「見てくる犬」佐藤一明=山口県宇部市で2024年10月26日、上入来尚撮影

 ◇見てくる犬

 島根県吉賀町賞 賞金20万円

 佐藤一明 1970年生 北海道

 255×134×220㌢・鉄板、ペンキ

 のんびりとしたたたずまいで、その小さな瞳が見つめるものは何か。主人を待っているのか。何かをおねだりしているのか。あるいは、せわしなく動き回る人間たちを眺めているのだろうか。そばで一緒に見てみたい。

山口県立美術館賞「雨雲ヒュッテ」大西治、大西雅子=山口県宇部市で2024年10月26日、上入来尚撮影

 ◇雨雲ヒュッテ

 山口県立美術館賞 賞金20万円

 大西治・大西雅子1962年生・1960年生京都府

 220×400×260㌢・アルミニウム、ステンレス、強化ガラス

 芝生に降り立った宇宙船?カニ?雨雲? 中に潜り込み、天井を見上げる。円形の窓から見える空は宇宙にも、ヒュッテ(山小屋)から望む青空にも見える。少しだけ日常の重力から自由になり、感覚を解き放つ。

島根県立石見美術館賞「その先にあるもの」関玄達=山口県宇部市で2024年10月26日、上入来尚撮影

 ◇そのさきにあるもの

 島根県立石見美術館賞 賞金20万円

 関玄達 1965年生 東京都

 140×680×60㌢・アルミニウム、ステンレス

 湖に向かってまっすぐに伸びる雲。向かう先には、輝く湖面がある。雲は周囲の風景を映し出し、光により刻一刻と姿を変えていく。雲と共に世界を見つめる。その先にあるのは、未来だろうか。

柳原義達賞(特別賞)「Hito_ita-k021 Jun.024」Kyuichi Sato=山口県宇部市で2024年10月26日、上入来尚撮影

 ◇Hito_ita−k021 Jun.024

 柳原義達賞(特別賞) 賞金150万円

 Kyuichi Sato 1955年生 宮城県

 260×104×101㌢・石(美祢産大理石、江持石、姫神黒石)など

 巡る、巡る、生命は巡る。太古の時代から人類は大陸をまたぎ、同じ文様を刻んできた。渦、組みひも、植物、動物……文化の違いを超え、人類が地上に刻みつけようとしてきたものは何だったのか。今一度、見つめる。

 ◆その他の作品

 ◇実物大制作

 袁方洲 チャチャワン・アムソムキッド 松村明育 桑田覚 ダム・ダン・ライ クウシオグル・スタイ

 ◇模型入選

 プロジェクト・ムーン 土田義昌 仲田守 岩崎順一 諸隈聖暁 木村徳人大松俊紀 森太三 武田克史 山口裕之 岡田健太郎 布施美子貴 伊藤剰クオ・クオシャン クボ・タケシ

 ◇選考委員

 酒井忠康(委員長) 美術評論家

 水沢勉       美術評論家

 植松奎二      彫刻家

 河口龍夫      現代美術家、筑波大芸術学系名誉教授

 河野通孝      山口県立萩美術館・浦上記念館館長

 不動美里      姫路市立美術館館長

 藤原徹平      建築家、横浜国立大大学院Y−GSA准教授

 日沼禎子      女子美術大教授

 高橋咲子      毎日新聞社東京本社学芸部記者

INFORMATION

第30回UBEビエンナーレ

<開催期間>12月22日(日)まで
<問い合わせ>UBEビエンナーレ事務局(0836・34・8562)
<主催>宇部市・UBEビエンナーレ運営委員会・毎日新聞社
<特別協賛>UBE株式会社

2024年11月28日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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