東南アジア現代アートの現在地を紹介する展覧会「リキッドスケープ 東南アジアの今を見る」が前橋市のアーツ前橋で開かれている。多様な文化や歴史が交錯し、変化を続ける東南アジアの「流動する風景」をタイ、インドネシアなど6カ国から集まった12組18人が、新たな視点で捉えた22作品で見せる。
参加作家のうち13人が1980年以降生まれの若手、6人が女性だ。4章構成の第3章「女性性のカウンターナラティブ」では、4組の女性作家の作品が紹介されている。
姉妹で活動するカンボジアのメッチ・チョーレイさんとメッチ・スレイラスさんは、女性の命を危険にさらすこともある出産を映像と写真で表した。赤い服を着た怪人の腹部が膨らみ、もだえながら川の中で土を産み落とすさまはグロテスクで生々しい。出産を神聖なものとしてだけ捉えない姿勢がそこにある。
インドネシア出身のナターシャ・トンテイさんは、伝統的な男性性を象徴する部族の儀式を少女たちが演じる映像を、胎内をイメージさせるようなピンクの部屋で見せた。
目を引いたのが、タイ出身のカウィータ・バタナジャンクールさんの作品群だ。自らの体を掃除機に見立てて塵(ちり)を吸い込み、機織り用具の杼(ひ)となって縦糸の間をくぐり抜ける。苦痛にゆがむ顔は痛々しい。一方で、映像はカラフルでポップな商業広告のよう。その対比が、主に女性が担ってきた〝見えない〟家事労働の過酷さを浮き彫りにする。
インドネシア・バリ島出身のチトラ・サスミタさんはバリに古くから伝わるカマサンスタイルという画法を用いて、神話的世界をフェミニズム的な視点で描き直した。シャンデリアのように円形に3層に連なった絵画の下には、儀式で使われるターメリックパウダーが敷き詰められ、スパイシーな香り漂うエキゾチックな空間になっている。
女性作家の鋭い感性に、東南アジアの発展とパワーを見た。12月24日まで。
2024年11月25日 毎日新聞・東京夕刊 掲載