版画工房からスタートし、ギャラリー運営やデザイン、音楽へと活動の幅を広げてきた「ノマル」(大阪市)が35周年を迎え、詩画集「詩人と美術家とピアニスト」を記念出版した。詩人で美術評論家の建畠晢(たてはたあきら)さんの詩を題材に、一線で活躍する17人のアーティストが新作を制作。詩の朗読とピアノ演奏を収めたCD付きで、ディレクターの林聡(さとし)さんは「『限定しない』をモットーにやってきた活動の一つの集大成になった」と話す。
「畳屋の二階で、鳥が殺されました」という一文から始まる「葉桜の町」は、黒宮菜菜さんが制作。蜜蝋(みつろう)と分厚い絵の具を重ねる独自の技法で、日常に潜む不穏さを描き出した。実物の草花を蜜蝋で閉じ込めた画面には、鳥の首を掲げる女の姿がおぼろげに浮かぶ。「スキップをして遠ざかる」という一編には、山田千尋さんが鮮やかな赤系の油絵3点を描いた。主人公の感情を想像してモチーフを描く一方で、色は「絵自体が自立するように、詩から一番遠いものを選んだ」という。「土蔵とシャンソン」の人物に建畠さん本人を感じたという今村源さんは、手製の土蔵の壁に針金の造形を付け、建畠さんをほうふつとさせる影絵を映し出した。
「ノマル」はノマド(遊牧民)とアートを組み合わせた造語。出版と制作が一体化した欧米型の版画工房を目指して設立し、1994年にはデザイン・編集部門を、99年にはギャラリーを開いた。立体、平面、映像など多様な表現を、林さんが作家と共に追求。詩画集にも作品を寄せた名和晃平さんの「PixCell(ピクセル)」シリーズが生まれるなど、作家の可能性を引き出してきた。「表現って小さいものじゃない」(林さん)と前衛音楽にも進出。建畠さんは「作家との相互的な関係がすごくいい」と話す。
ギャラリーノマルでは詩画集に収められた新作を16日まで展示。30日からは20人の作家を加え、総勢37人が出品する第2弾の記念展を開く。
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林さんはかねて闘病中だったが、取材後の1日、敗血症のために死去した。
2024年11月11日 毎日新聞・東京夕刊 掲載