「表面から表面へ」(1971年)の展示風景=山田夢留

 「もの派」の中心的存在だった1960年代末から現在に至るまで、現代美術の第一線で活躍する彫刻家、小清水漸(すすむ)さんの個展「小清水漸の彫刻 1969~2024・雲のひまの舟」が、兵庫県の宝塚市立文化芸術センターで開かれている。半世紀以上にわたり木や土、水といったなじみ深い素材で多様な表現を展開してきた足跡を、代表作の数々でたどる。15日まで。

 44年、愛媛県宇和島市生まれ。多摩美術大彫刻科に在学中の68年、「もの派」の出発点となった関根伸夫の野外作品「位相-大地」の制作に参加した。本展は翌69年の作で、重力の起点に向け、天井から円すい形の分銅をつり下げた「垂線」から始まる。続く展示室には、71年の初個展から手がけるシリーズ「表面から表面へ」。モノ自体を見せる代表作の一つで、同じ形の木材の表面に異なる幾何学模様が削り出されている。

 「『西洋近代美術』という借り物ではなく、自分の言葉でしゃべればいいんだ」。「位相-大地」完成の瞬間に感じた大きな解放感が、創作の進路を定めた。一方で、自ら名乗ることも集団を作ることもしていないのに「もの派」と規定されることに、違和感もあったという。「表面から表面へ」制作の背景には「物質に何も手を加えないのがもの派だと言われていたことへの反発もあった」と明かす。

 73年、関西へ移住。渡欧時に自身の根ざす風土や歴史を大切にする作家たちを知り、「最先端の情報が集まる東京ですいすい泳ぎ回ることもできるが、それでは流れていくだけのものになってしまう」と考えたという。「作業台」シリーズは移住後に生まれた。「関西の柔らかな空気の中で制作していると、感じる風とか光とか作品自体には実際に表れてこないようなことが大事に思われてきた」。本展を企画した加藤義夫館長は「作家の思索の現場、残像がそこにあるように感じる」と話す。

「作業台-新月のアルテーミス」(97年)の展示(手前)。奥は「箱」シリーズの「栗の笈(おい)」(93年)=山田夢留

 信楽で始めた陶の作品、箱やレリーフのシリーズなど多彩な表現は、どれも小清水さんにとっての必然から生まれている。

2024年10月7日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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