展覧会は展示された作品を鑑賞するものと、普通は思っているだろう。そんな常識を覆すのが、東京都現代美術館で開催されている「開発好明ART IS LIVE―ひとり民主主義へようこそ」展だ。意思を表明したり、アクションを起こしたりすることで、作品づくりにかかわることができる〝参加型〟の展覧会となっている。キャッチフレーズは「あなたと僕とでつくる展覧会」――。
開発さんは1966年、甲府市生まれ。日常の出来事や社会の動きをすくい取り、人とのコミュニケーションを生む作品を絵画や写真、インスタレーションといった枠にとらわれない、さまざまな形態で発表している。
作品に鑑賞者を巻き込むのが〝開発流〟。本展の来場者には「ウェルカムキット」という水色のバッグが手渡される。中に入っているのは発泡スチロールと青色のはがき大の紙、そして「MISSION」と書かれた小さな白い紙。紙の裏にはやるべきミッションが書かれている。自分だけのミッションを行うことで作品づくりに参加できると同時に、それ自体が「ミッション」(2024年)という作品になっている。
発泡スチロールを使うのが「投げ彫刻」(24年)だ。的に向かって投げる。誰かが投げるたび、発泡スチロールが積み重なり、形も数も変わっていく。がさがさ。ぽすっ。こん。少し気の抜けたような音もまた楽しい。「未来郵便局 東京都現代美術館支局」(24年)では、青色の紙を使って未来の誰かに宛て手紙を書く。預けられた手紙は、開発さんの手によって1年後、ポストに投函(とうかん)される。
「147801シリーズ」(14年~)は、ピカソの生涯作品数14万7800点を上回る作品を生み出そうというプロジェクト。棚に並べられた木製オブジェを一つ、持ち帰っていい。ただ持って帰って終わりではなく、飾った写真を撮影して開発さんに送ることで初めて作品としてカウントされる、という趣向だ。「作家は売れてしまうと自分の作品がどこに飾られているのか全くわからない。どんなところに僕の作品が嫁いだのか、把握できるのも面白いかなと思った」と開発さん。
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「ドラゴンチェアー」(08、24年)は、東京・府中市美術館のワークショップから生まれた作品だ。竜の胴体にあたる椅子の部分は小学生に作ってもらうという1回限りのイベントのはずが、その後も「頭だけ」が都内の小学校を巡り、毎年新しい椅子がつながれていく。その長さは総計2㌔を超えたそうだ。本展では、渋谷区の小学校で制作されたものが展示されている。
東日本大震災後、開発さんはトラックに作品を積み、義援金と応援の声を集めながら被災地域へ向かうチャリティー展覧会「デイリリーアートサーカス」(11年~)を行った。展示室の一角で揺れるレースのカーテンには、その紹介や、道中で目にした人が住めなくなった建物の外観を撮影したシリーズ「気仙沼ファサード」「飯館村ファサード」(ともに12年)が縫い留められている。
アートサーカス道中の出会いは、さまざまなプロジェクトに派生していった。「政治家の家」(12年~)もその一つ。東京電力福島第1原発から20㌔圏内、当時警戒区域となっていた場所から400㍍のところに、政治家専用の休憩施設として置いた。700人を超える衆参両院の国会議員に招待状を送ったが、視察に訪れた議員はいなかったとか。
<誰も住む事が出来なくなった場所が日本に存在している事が本当に悲しかった。もし中央で日本の現状も知らないまま、今も日本のエネルギー政策が経済優先で行なわれているとしたらと思うと、2012年に私は行動を起こさなければならなかったのだ>
14年に韓国で行われた展覧会用パンフレットのステートメントに、開発さんはそう記している。
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多くの人を巻き込むような作品を作りながらも、ひとり淡々と作業し、あくまで個人のささやかな営みとして正義にアプローチし、規制にレジスタンスする開発さんの姿勢を、「BankART1929」元代表の故・池田修さんは「ひとり民主主義」と名付けた。本展のタイトルにもなっている。
開発さんは会期中ほぼ毎日、会場にいるという。「皆さんも何かするし、僕も何かしている。流動的に動いていくような展覧会になりそうです」。なにか面白いことになりそうである。11月10日まで。
2024年9月30日 毎日新聞・東京夕刊 掲載