新築時の姿で移築された土浦亀城邸の外観=©土浦亀城アーカイブズ

 昭和初期の日本の木造モダニズム住宅を代表する傑作、土浦亀城(かめき)邸が、東京・青山のポーラ青山ビルディング敷地内に移築された。今月から事前予約制で一般公開される。

 土浦亀城(1897~1996年)は、20世紀前半に日本で数多くのモダニズム建築を設計した建築家。東京帝国大学を卒業後、帝国ホテルの設計に参加した。その後、日本初の女性建築家でもある妻信子(1900~98年)とともに米国に渡り、「近代建築の三大巨匠」の一人、フランク・ロイド・ライトの下で修業した。

 土浦邸は35年、夫妻の自邸として品川区上大崎に建てられた。95年には東京都の有形文化財に指定され、99年には近代建築の保存活動に取り組む「DOCOMOMO Japan」によるモダニズム建築の初代20選にも選ばれている。夫妻の死去後は元秘書が相続して住んでいたが、老朽化が進んでいたうえ、入り組んだ住宅地に建てられており、文化財としての一般公開も難しいため、移築することとなった。

 ポーラ青山ビルディングへの移築は二つの偶然が重なって実現した。一つは同ビルディングの設計・監修を担った建築家で東京工業大名誉教授の安田幸一さんが、土浦邸の保存調査にも携わっていたこと。もう一つは、同ビルディング建設地内の高低差が、土浦邸が建っていた上大崎の地形とほぼ同じだったことだ。「ここなら移築できるのではないか」と、安田さんがポーラ側に打診したという。

 通常の文化財保存は、指定を受けた時点の姿を保つよう修復されるが、今回は35年の完成時の姿に戻すことを目指した。安田さんは「亀城が何を考え、この家を建てたか。その精神を残す保存をしようと思いました」と話す。基礎となる構造材は7割方残せたが、仕上げ材はほぼ新しいものに替えた。今後100年もたせるため、耐震補強も施した。「新しい形の文化財保存になった」と安田さん。

 約6年かけて、新築当初の姿によみがえった土浦邸。外観は白い箱形で、内部は開放感のある吹き抜けのリビングにスキップフロア、板張りの床。機能的なシステムキッチンや水洗トイレも備えている。今見ても古さを感じさせず、平屋の瓦屋根の家屋がほとんどだった時代に、目立っていたことだろう。

土浦亀城邸の居間=©土浦亀城アーカイブズ

 一般公開は月2回で今月は25、28日。定員15人のガイドツアーを1日2、3回実施予定。観覧料は1500円。予約は土浦邸ホームページ(https//www.po−realestate.co.jp/business/aoyama−tsuchiurakameki.html)。

2024年9月2日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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