河野愛「ことものforeign object(clock)」(2024年、手前)。奥の映像や写真作品の小さな「玉」と真珠がシンクロする

 ぷにぷにしたあかちゃんと一粒の真珠。愛らしいものと美しいものの組み合わせなのに、異様な空気を感じるのはなぜだろう。柔らかな肌に異物を挟みこむことへの違和感なのか、対象との近すぎる距離感なのか。何かがアンバランスで、目が離せなくなる。

 和歌山県立近代美術館で、ゆかりの現代作家の作品と館のコレクションを組み合わせ、新たな美術の楽しみ方を提示する「なつやすみの美術館」が開かれている。

 14回目となる今年のゲストは河野愛さん(1980年生まれ)。「こともの、と」と題した展示では、時代もジャンルも異なる作品がシンクロしながらつながっていく。

 「異物/異者」と表記される古語をタイトルにした「こともの」シリーズに写るのは、腕や耳、おへそなどに真珠を挟まれた河野さんの子どもだ。出産後まもなくコロナ禍が世界を覆い、閉ざされた空間で乳児と向き合う日々が続いた。自分の中から生まれたとはいえ、意思疎通が難しい乳児は「異者」であり、ケアされなければ生きられない、はかない存在でもあった。

「異物と遺物」がテーマの展示室。奥には河野さんの「<I>pillar」(22年)がある

 カチカチというおもちゃのカメラのシャッター音に合わせ、乳児の肌と真珠がスクリーンに映し出される。隣にはコレクションから、ピカソやセルフポートレートで知られるシンディ・シャーマンの作品。どちらも「良妻賢母」といったステレオタイプとは異なる女性が表現されている。耳と真珠のカットとシンクロするように三木富雄「耳」が展示され、両面スクリーンの裏側に回れば、展示序盤で見た映像に映る小さな月と真珠が、静かに響き合っていることに気付く。

 河野さんは滋賀県出身だが、祖父母が和歌山・白浜で老舗ホテルを営んでいた。2016年にホテルを手放すことになり、河野さんは下ろされたネオン看板の最後の1文字「I」をもらい、作品に用いるようになった。本展では四つの「I」を縦につなぎ、「異物」から「遺物」を連想した展示室の一番奥に展示。黄色い光は祭壇のような厳かさで、それぞれの土地に蓄積された人々の営みに思いをはせさせる。9月23日まで。

2024年8月5日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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