作品と1対1で向かい合うのが一般的な展覧会だとしたら、現在、東京国立近代美術館(千代田区)で開催中の「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」は趣を異にする。モダンアートのコレクションに定評のある同美術館、大阪中之島美術館、フランスのパリ市立近代美術館の3館が、テーマに沿ってそれぞれ作品1点を選び、3点でひとつの〝トリオ〟を構成するというユニークな展示になっているのだ。
主題やモチーフ、色や形、素材、作品が生まれた背景など、その共通点はさまざま。作品ジャンルも、絵画、彫刻、版画、素描、写真、デザイン、映像……と多岐にわたる。3館の学芸員が自館のコレクションを再検討しながら、自由な発想と多角的な視点で選び出した、総勢110人の作家による約150点の作品(前後期で展示替えあり)で34組のトリオを組み、テーマやコンセプトに合わせて七つの章に分けて紹介。洋の東西を問わず、年代も異なる作品を、ともに鑑賞できる見応え十分の内容だ。
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最初の章<3つの都市:パリ、東京、大阪>に向き合う前にまず、<コレクションのはじまり>と題したトリオに迎えられる。パリからは、20世紀前半の抽象美術をけん引したロベール・ドローネー「鏡台の前の裸婦(読書する女性)」(1915年)。東京から、日本近代を代表する洋画家・安井曽太郎の「金蓉」(34年)、大阪は大阪市出身の佐伯祐三の代表作「郵便配達夫」(28年)というトリオだ。〝コレクション展〟であることを強くアピールしたいと考えての選出だが、「椅子に座った人物像」であるという共通点もある。
<生まれ変わる人物表現>の章では、<モデルたちのパワー>という視点で、アンリ・マティス「椅子にもたれるオダリスク」(28年)、萬(よろず)鉄五郎「裸体美人」(12年、展示替えあり)、アメデオ・モディリアーニ「髪をほどいた横たわる裸婦」(17年)でトリオを組んだ。
西洋絵画の歴史のなかで、脈々と続いてきた「横たわる女性」のモチーフを、その枠からはみ出すがごとく力強く表現している点で共通している。マティスのそれは、まるで部屋で寝転んでテレビを見ているかのようなポーズで、見られることを意識していない、くつろいだ様子に描かれ、モディリアーニでは、挑発しているかのように、こちらを真っすぐ見返す強い目が印象的だ。萬の裸婦は、恐らく西洋の作品ではほとんどないであろう縦型の構図で描かれている。
思い思いに寝そべる彼女らがいなければ、これらの作品は生まれ得なかった。モデルたちの力強さを感じられるトリオだ。
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<人物とコンポジション>は、洋画と日本画の競演だ。マリア・ブランシャール「果物籠を持った女性」(22年ごろ)、小倉遊亀「浴女 その一」(38年、展示替えあり)、岡本更園「西鶴のお夏」(16年、展示替えあり)で構成された。ブランシャール作品の床の格子模様が、9日からの後期に展示される小倉の「浴女 その二」(39年)のそれと非常に似ていることから、発想が始まったという。
「パリと東京の2作品があまりにもハマりすぎていて、何を持ってきたらいいか非常に悩んだ」とは大阪中之島美術館の高柳有紀子さん。考え抜いた末、「ブランシャール作品が縦長なので、同じ縦長の軸作品がいいだろう」と選んだそうだ。「西鶴のお夏」で画面を斜めに横切る青と白の幕は、ブランシャール作品の色合いや斜めの線と確かに呼応している。このトリオは女性画家という共通点でつながり、小倉と岡本は同じ1895年生まれというのも興味深い。
トリオを組む作業は2022年7月から始まり、月に1~2回、パリ・東京・大阪をオンラインでつないでミーティングを重ね、1年2カ月かけて確定した。ボツになったトリオは100以上。代表的な作品でも、うまく組めずに断念したものもあるという。
「通常のテーマ展や作家の個展では隣に並ぶことのない、一期一会のトリオに注目してほしい」と東京国立近代美術館の横山由季子さんは話す。そんな思いを込めた本展のキャッチコピーは「見て、比べて、話したくなる」。まさに、その通りの展覧会になっている。8月25日まで。9月14日からは大阪中之島美術館へ巡回する。
2024年7月8日 毎日新聞・東京夕刊 掲載