古くから絵画と物語や歌は深い関係にある。絵から受けた感興から歌が詠まれたり、歌に詠まれた景勝や物語の名場面が絵画化されたり。互いに影響を与え、表現が高められてきた。泉屋博古館東京(港区)で開催中の企画展「歌と物語の絵」では、そんな歌や物語を主題にした華麗なやまと絵を紹介している。
もともと絵巻物や冊子に描かれることが多かったやまと絵だが、桃山時代から江戸初期には、屛風(びょうぶ)や襖(ふすま)絵などの大画面に表現を移していった。狩野派、土佐派、琳派など多くの画派が生まれた時期でもあり、各画派は創意を尽くした物語絵屛風を多く遺(のこ)した。伊勢、源氏、平家物語は特に人気があったとされる。
「源氏物語図屛風」(江戸・17世紀)は左右2隻に「桐壺」「若紫」「葵」など12場面が描かれている。それぞれの場面は金雲で区切られ、その配置は特に物語の流れに沿っているわけでもなく、重要な巻を選んだというわけでもない。1隻の中に春夏秋冬を配し、車争いの乱闘や華やかな宮廷行事など〝絵になる〟場面を取り上げるなど、全体のバランスに配慮している。今でいうところの〝映え〟優先だ。
人物の描写もあからさま。のちに妻となる少女を見初める源氏は、垣間見どころか、身を乗り出さんばかりに熱っぽくねっとり見つめているさまに描かれ、車争いの場面では、本来なら御簾(みす)で隠れているはずの、高貴な年上の愛人の顔をしっかりと見せている。こうしたちょっと俗っぽい描写は、風俗画を得意とした岩佐又兵衛(1578~1650年)に近く、晩年の工房作とみられている。担当学芸員の実方葉子さんは「この屛風絵を見ていたのは、貴人ではなく町方の人だったのでは」と話す。
展示のガラス越しではなかなか見にくい細部の描写だが、本展では文化財用の高精細スキャナーで撮影した拡大画像を見ることができる。「伊勢物語図屛風」(桃山~江戸・17世紀)、「平家物語・大原御幸図屛風」(桃山・16世紀)も展示されており、三者三様、画派や構成の違いを比較しながら見るのも面白い。21日まで。
2024年7月1日 毎日新聞・東京夕刊 掲載