白髪一雄「黄帝」1963年、油彩・布

 大画面を縦横無尽に動き、うねり、積み重なる、おびただしい量の絵の具は、約60年の時を経ても、生きているかのような表情で見る者を圧倒する。足で描く「フット・ペインティング」で知られる戦後の抽象画家、白髪一雄(1924~2008年)。生誕100年にあたる今年、白髪が生涯を過ごした兵庫県で、代表作が一堂に会している。

 兵庫県立美術館(神戸市)では「白髪一雄生誕百年特別展示―コレクションからザ・ベリー・ベスト・オブ・白髪一雄―」と題した特集展示が行われている。豪傑の名が付けられた「水滸伝シリーズ」6点がぐるりと配置された最初の展示室から、作品の放つエネルギーが空間を支配している。

 同県尼崎市の呉服屋に生まれた白髪は、京都市立絵画専門学校(現京都市立芸術大)で日本画を学んだ後、新たな芸術表現を求め抽象へと進んだ。55年、前衛芸術家集団「具体美術協会」に参加。天井からつるしたロープにつかまり、絵の具をまいたキャンバスの上を滑走するという独自のアクションペインティングを確立し、「具体」の中心メンバーとして活躍した。

 「黄帝」(63年)は縦272㌢、横212㌢と、白髪作品の中でも特に大きな作品で、数少ない縦長作品の一つでもある。赤、黄、青など絵の具の大きな動きとともに、線やしぶきなど細かな表現も見られる。西田桐子学芸員は「構成力、色彩のコントロール力が作品の前に立つとわかる。『足で描く』から単調かと思いきや、装飾的と言ってもいいぐらい画面ができあがっている」と話す。

「白髪一雄生誕百年特別展示」の展示風景。右が「あびらうんけん」(75年)

 密教にひかれ、71年に出家得度。「あびらうんけん」(75年)は、密教をテーマに円環を描いた作品の一つで、生前の白髪が選んでコレクション入りした会心の作という。同館は約40点の作品を収蔵するが、白髪作品は国内外から貸し出し依頼が多く、これだけまとまった形での展示は初めてだという。「改めて見てみて、非常に理知的に作られているという印象を深めた」と西田さん。結界を設けず、間近で作品が見られるのもコレクション展ならではの楽しみといえる。7月28日まで。尼崎市総合文化センターでは「行為にこそ総(すべ)てをかけて」と題した記念展が、7月27日から9月23日まで開催される。

2024年6月17日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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