撮影スポットとしても人気の展示室「太陽」(C)1994 Reversible Destiny Foundation. Reproduced with permission of the Reversible Destiny Foundation

岡山県「奈義町現代美術館」
絵になる無二の非日常

文:相原洋(毎日新聞岡山支局長)

現代美術

 岡山県北東部の奈義町。鳥取県と接する人口約5500人のまちに魅力的な美術館がある。ユニークなアート体験が楽しめることに加え、近年は撮影スポットとして注目されて客足を伸ばす。2024年度は初めて6万人を突破した。

 1994年開館の奈義町現代美術館。3組の作家の作品を施設と一体化させ、半永久的に見せる。建築家・磯崎新氏の設計で、斬新な展示手法は「公立では世界初」といわれた。

奈義町現代美術館の外観。右の円筒形の施設が「太陽」=著作・毎日

 三つの展示室を巡る。ワイヤのオブジェが揺れて刻々表情を変える「大地」から、壁に飾られたひさしとベンチだけの部屋「月」へ。歩く音が反響する。試しに手をたたくと、「パン」という音がこだました。続いて、らせん階段を上がって「太陽」の部屋へ。円筒形で平らな所がない。曲面の壁に配された京都・竜安寺の石庭が、筒の奥から差し込む陽光で幻想的に浮かび上がった。

奈義町現代美術館の展示室「月」。小さな音でも響いてくる=著作・毎日

 同館によると、当初は展示替えできない手法を疑問視する声もあったという。発掘した最新作家をギャラリーで紹介して、「最先端」を発信しながらリピーターを増やしてきた。

 観覧者が大きく増えたのは新型コロナウイルス禍から。密にならず鑑賞できる場として訪れた人が撮影した写真をSNS(ネット交流サービス)のインスタグラムに投稿。「常設展示が映える」と評判になり、これまで訪れることのなかった人が撮影しては投稿するようになったのだ。

 若いカップルが人気の「太陽」の撮影を終え、内部にあるシーソーに乗って上下し始めた。ベンチも、鉄棒もある。私もベンチでひと休みをと思うのだが、なかなか一歩踏み出せない。対称的な構造なのに不安定で、平衡感覚が損なわれてしまうのだ。ここには何度か訪れているのだが、少しも古びたところが感じられない。むしろ、この非日常感はくせになっている。

 町のシンボル・那岐山(1255㍍)の南麓(なんろく)に広がる菜の花畑が盛りの時季を迎える。澄んだ空気と黄色いじゅうたんを、五感が研ぎ澄まされる美術館とともに味わいたい。

那岐山南麓に広がる菜の花畑=著作・毎日

 <メモ>

 奈義町現代美術館へはJR津山駅から路線バスで約40分、車で約30分。中国自動車道津山インターチェンジ(IC)から約20分。観覧料一般700円。午前9時半~午後5時(入館は午後4時半まで)。月曜休み。美術館周辺で4月13日に恒例の菜の花まつりを開催予定。

2025年3月23日 毎日新聞・日曜くらぶ 掲載

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